システムの仕事をしたことがあるなら、要件定義書や設計書などの成果物について、誰しもがレビューを受けたことがあるだろう。
そして、なかなかOKを出さない上司やチームリーダーが居て、どうにも突破できず何時間も何日もドハマりした経験がある人も、多かろうと思う。
あのリーダー、レビューで全然承認くれません……。
そんな時は、レビュワーのタイプによって、アプローチを変えてみると良い。
なかなかレビューが突破できないときの攻略法を、レビュワーのタイプ別に整理してみよう。
難敵のレビュワーでも、意外なところに突破の糸口が見出だせるかもしれない。
レビュワータイプ別攻略法
ソーシャルスタイルによる4タイプ分類
1960年代、アメリカの心理学者デビッド・メリルによって4つのコミュニケーションスタイルの分類が提唱された。
縦軸に自己主張の強さ、横軸に感情の強さをとり、下記4つのスタイルを分類した。
①ドライビングタイプ
②アナリティカルタイプ
③エクスプレッシブタイプ
④エミアブルタイプ
それぞれのタイプには独自の特性があり、特性に応じたコミュニケーションスタイルを選択することで、円滑な交渉を測ることが出来るという。
成果物レビューについても同じことが言える。
レビュワーのタイプを把握し、それに応じたコミュニケーションを取ることが、効率的なレビュー突破につながる。
ドライビングタイプ
・意見をはっきりと言うリーダー気質。
・合理的で一貫性がある考え方を好み、ロジックで納得がいくかどうかで評価する。
・自主性があるのが当たり前だと思っており、指示されるのが嫌いで、競争心が強い。
まず意見対立は避ける。(競争心のスイッチを押さない)ドライビングタイプははっきりした意見を持っていることが多い。
レビューが通りづらいと感じているのであれば、このタイプのレビュワーが持つ意見を十分に汲めていない。
まずはレビュワーが何を重視しているのか確認し、相談ベースで物事を進めて納得ポイントを探すこと。要件定義だと考え、レビュワーが考える最適解やアプローチを探り出すこと。また、結論から先に言うこと。論旨をはっきりとさせること。曖昧な議論は好まれない。
無用な意見対立は避けた方が良いが、はっきり主張せずに濁すような内容では認めてもらえない。
アナリティカルタイプ
・控え目な研究者気質で、時間をかけて分析し論理性を重視する。
・計画を立てて、時間を投入して物事を遂行したい。
・真面目で寡黙、急かされるのは好きではない。
十分な時間をかけ、相手と同じ理論体系に立って対話すること。
このタイプはデータに基づく判断を好む。現状分析をしっかり行い、過去の事例、過去の成果物などから導いた結論を軸に資料を構成する。注意する必要があるのは、自分が急いでいるからといって非計画的で性急な成果物チェックをお願いしてしまうと、逆に窓を閉ざされる。
急かさず、じっくり考えてほしいという思いを伝えること。
エクスプレッシブタイプ
・明るく社交的で、コミュニケーションを取るのが好きなタイプ。
・楽観的であり、かつ直感的に行動しがち。
・ムードメイカーとして組織に必要な存在となる。
ロジックで攻めてもこのタイプには刺さらない。ノリで勝負なところがある。
このタイプは、顧客へのアプローチは最終的に心を掴んだら勝ちと考えている。
受け手の気持ちや心象に配慮した資料を作成し、成果物からあなたのエモーションを感じ取ってもらおう。
ロジックを積み上げた先に答えがあると考えているドライビングタイプやアナリティカルタイプは苦戦することになる。
エミアブルタイプ
・親しみやすいタイプで、周囲に気を配り、強調して物事にあたる。
・穏やかな性格で、共感力が強いので周りの意見に流されがち。
・自分の主張点を持たず、争いごとは苦手。
・ちょっと強めに攻めるとすぐ「自分が悪い」と思ってしまう。
そもそもこのタイプでレビューに詰まることはあまりない。(ある意味力押しに弱いので)
それでもドハマりになっている場合は、レビューを受けている成果物自体の品質には問題ないことが多い。このタイプは優柔不断で決断が出来ない性格なので、
「本当にその案で行っていいのか?」
「一人でも不愉快な思いをする人がいるのでは……?」
と考えて尻込みしてしまっている。
そんなときは、成果物に対する賛成意見をいくつか集め、「Aさんはこの成果物のここを高く評価していました」「Bさんはここが良いと言っていました」という形で、共感の輪が広がっていることを示す。
『周りの意見』をパイプユニッシュのごとくガンガン投入して、詰まりを流して差し上げよう。
自分と相手のタイプを把握してレビューに臨む
ソーシャルタイプが異なる者同士でレビューをする/受ける場合、レビューは難航する傾向がある。
タイプが違うということは、世界をどのような窓で見通しているかが全く違うということだ。
考えていること、見えていること、重視していることが全く異なる場合、噛み合わないためレビューは長期化し、納期が迫ってくるプレッシャーの中で、非常にストレスフルな状況が現出するというわけだ。
まずは相手のソーシャルタイプを把握し、また、自分のソーシャルタイプもしっかり把握しておこう。
例えば、ドライビングタイプがレビュアーだった場合、エクスプレッシブタイプに対しては、成果物の内容の楽観性にイライラするだろうし、エミアブルタイプに関しては自分の意思を持っていないことを繰り返し指摘することになる。
逆に、エクスプレッシブタイプがレビュアーだった場合、アナリティカルタイプがせっかくデータを一生懸命積み重ねてきても、あまり刺さってくれない。
自分が重視しているものと相手が重視しているものには差があることを、まずは意識しよう。
最も手強い「鬼レビュワー」の特殊攻略法
注意が必要なのは、現実的には人格特性というのは多様であり、人間を4タイプの型にはめることは難しいことだ。
多くの場合、人は単一のタイプではなく、複数の要素を併せ持つこともある。
そして、レビュワーのタイプで最も厄介なのが、ドライビングタイプとアナリティカルタイプの特性を併せ持つ人物だ。
いや、人ではない。もはやこのタイプは鬼だ。鬼レビュワーだ。
緻密さと品質基準の高さが要求され、納得しない限り承認を出さない、かなりの難敵となる。
ドライビングタイプとアナリティカルタイプの特性が同時に発揮されると、レビューにおいては非常な難敵となる傾向がある。
というのも、感情によって判断を左右させることのない鬼レビュワーは、論理的に真理追及する傾向があり、純粋にロジカルな世界でのみ勝負をすることになるからだ。
寝技の通用しない殴り合いのようなものだ。
レビューを受ける人の気持ちなども配慮されず、ストレートな指摘を出すのも特徴だ。
こうした最も手ごわいレビュワーについては、相応の特別な攻略法を組む必要がある。
そのためには、彼らがどのような価値観や期待を持っているのかをまず理解することが必要だ。
難度は高いが、このタイプのレビューを恒常的に突破できるようになったならば、相当に能力が高くなったと言える。
※注意:有能な鬼レビュワーを装った、ただマウントを取りたいだけの無能も居るので、そこは各自で見分けるしかない。
価値観
このタイプのレビュワーは、以下のようなことを重視している。
・現状に対する注意深い分析
・リスクに対する考察と現実的な対処
基本原則を重視しており、起きうる可能性に広範に対処するための調査と入念な準備によって、組織の目的が達成されると考えている。
見通しが曖昧であったり、「なるようになるでしょ」というような楽観的な態度を取ると、即座に対話の窓を閉じてしまう。
課題中心志向のため、課題をいかに解決するかに心血を注ぎ、難易度が高ければ高いほど燃える性格だ。一方、ロジックによる完全な課題解決さえ達成されれば、人の気持ちなどはどうでも良いと思っている。
修行僧のごとく自分に課しているものが多く、基準も能力も高いことが多いが、友達は少ない。
大胆な意思決定と、それを支えるデータ整理と実証を常に欠かさない。
相手を説得するときは、理論武装によって自らの考えの正しさを証明するアプローチをとる。
逆に、相手の感情に配慮したり丸め込むような手段は、真の課題解決を導かないと考え、下に見ている。
周囲に期待していること
周囲の人間が、高い専門性を発揮しながら、組織の原理原則を守って自主的に仕事をすることを期待している。
期限を遵守しつつ高い品質を追及する切迫感を持って仕事をすると高く評価される。
意見対立することもあるが、同時に、各々のポリシーを持って仕事をしている人を尊敬している。
自主的に勉強して能力を高めることを重視し、それを実践している人には好意を示す。とくに自分にないものを持っている人を尊重する。
論理的に考えたら当然であることについては、誰しもが同じ結論に至ると思っているので、ロジカルシンキングが苦手な人は軽視されやすい。
チームメンバーには、それぞれが専門性を発揮して独立して働くことを期待している。
これは逆の側面を言うと、他人への依存、つまり「何も言わずとも他人がカバーしてくれるのを期待する」であるとか、「足を引っ張る」であるとか、「借りを作ったのに感謝の言葉を示さない」ような場合は不快感を示す。
各自に自分でしっかり考えた上で、質問があれば自分なりに整理して訊いてくれることを望んでいる。質問に対しては丁寧に答え、自分の知見や問題解決のメソッドを惜しみなく提供するし、そうしたいと望んでいる。
しかしあまり考えたり調べた形跡のない質問に関しては、拒絶される。
鬼の攻略法
情報整理と一貫性
鬼レビュワーは、理論体系がしっかり整備された成果物を好む。
なので手を動かす前に、情報をしっかり整理したか、主張に一貫性はあるかを点検しておくのが重要となる。
情報が整理されていない、つまり調査や分析が足りていない成果物というのは、大抵がごちゃごちゃしてしまうものだ。
そうならないための情報整理のアプローチとは、下記のようなものだ。
まず要素を過不足なく洗い出しているか
②分類
洗い出した要素を分類したか
③ソート
分類したあと、意味のある順序で並べたか
こうした情報整理をどこまですればいいのか、どう進めたらいいか分からない人は、ロジカルシンキングによって課題解決をする訓練が不足している。
スキル訓練専門の会社が提供している講座などに参加してみると良いだろう。
レビュワーの思考傾向を把握
レビュワーがどのような情報整理を好むのかを把握することは、相手が重視している理論体系を把握することでもある。
まずはこれを把握するために、成果物の全体的なデザインをどうするかについて、質問したり討論したりしておく。
どういった考え方で情報整理すれば良いのか、どういった理論体系に寄って立つのが正解だと思っているのか。
そういった「結論に至るまでのプロセス」について鬼レビュワーがどう考えているかを、しっかりと傾聴する。
これは結構難しくて、「成果物の直すポイントだけ教えてほしい」と考えていると聞き漏らす。
レビュー中に提供された考え方やアプローチについては、よく聞いてその通りに実施しよう。
鬼レビュワーは、成果物がある思想をもとに一貫した論理で作られていることを望む。
表面的にどこを直せば解決、という安易なものではない。
表面的な修正を求めるのではなく、思考プロセスを求めよう。
逆に、思考プロセスが一貫しているのであれば、細かい表面的なミスは鬼レビュワーにとってさほど重要ごとではない。
よくあるドハマりパターンに、指摘されたところを表面的に修正するだけに終始しているというものがある。こういうのは「自主的に考えて直した」という形跡が見えないので、いくら直したところで賽の河原の石積みとなる。
(細かいミスを発見したとたん、一瞬でレビューを打ち切られることを繰返し経験したことがあるなら、このパターンを疑うべき)
リスクを正しく記述する
そもそも鬼レビュワーは、何故そんなにダメ出しをするのだろうか。
それはレビューの目的と密接にかかわる。
レビューをする目的というのは、品質不備を出さないためであり、「リスクを最小限に抑えること」だ。
リスクについてしっかり検討できていない成果物というのは、厳しい指摘の対象になる。
では、リスクがしっかり検討されている成果物というのはどういうものだろうか。
リスクとは「危険性」ではなく「振れ幅」と訳すのが正しい。
振れ幅はどうしても予測できないところはある。いくらロジックを重ねても未来予知は不可能だからだ。
しかし、予測できないところは
「なるようになるでしょ」
ではなく
「Aという前提をおくとこう予想される、Bという前提をおくとこう予想される。しかしAを置くべきかBを置くべきかは、事前に判断は不可能です」
という切り分けを行っておく。これで全く印象が異なる。どちらも「未来はわかりません」と言っているにもかかわらずだ。
ここでの最も重要な差は、見通すことが困難な事柄でも向き合って分析しているかどうかだ。
鬼レビュワーはここを重視している。
将来的に考慮不足による不備というのはどうしても発生してしまうことがある。しかし、事前にリスクに対して向き合っておけば、不備があった場合でも迅速に対応でき、ミスや遅れによって組織の価値が既存されることはない、と鬼レビュワーは考えている。
また、よく分からない部分は、その部分を明示した上で、よく分からなかったと伝えた方が良いだろう。不明な部分に対して、助言をもらえたり、調査を手伝ってもらえることもある。
鬼レビュワーは厳しいが、正しく求めれば支援を受けることも出来る。
最後に、正攻法では無理だと悟ったら
自分の今の能力や思考力では、どうしても鬼レビュワーの論理体系を理解できず、相手の思考法に則った成果物を作れない場合がある。
というか、ドハマりしているパターンではそれが大半だ。
納期も迫っている。焦っていて、指摘にも参っている。じっくり相手の理論体系を考えている暇もない。
絶望っ……!圧倒的絶望……!!
こうなると最早リソース不足。
もう自力解決は不可能と割り切ろう。出来ないものは出来ないのだ。
ところで、鬼レビュワーは原理原則や社会通念を重視している。
これを利用して、レビューの難易度について譲歩を引き出すことが出来る。
それは、レビューや仕事品質云々とは「別の軸の原理原則」を思い出させてやることだ。
詳しく説明する。
鬼レビュワーは、成果物に甘さが垣間見えるほど要求水準が高くなり、レビューを受ける側を追い詰めがちだ。
なのでこう伝える。「あなたの指摘が非常に強いので精神的に参っており、成果物作成のために労働時間も長くなり身体的にも疲労が蓄積している」と。
この時、間違えて「パワハラだ」と言ってはいけない。
パワハラだという指摘(対立意見)に対しては、理論武装して「いかにパワハラではないか」を証明しようとしてくる。余計に疲れることになる。
あくまで「精神的にも身体的にも参っている」と言えばいい。
鬼レビュワーは頭がいいので、すぐに「自ら」パワーハラスメントの社内ガイドラインや関連法、過去事例や報道を頭の中に呼び出す。
これこそが「別の軸の原理原則」を思い出させてやることだ。
自ら呼び起こさせるのが重要だ。他人に思考をコントロールされるのは拒絶するが、自ら思考したことはすんなり受け入れる。
社会通念上、パワハラが良くないことは理解しているので、レビュー時の圧力を修正し、成果物完成のために歩み寄ったアプローチを取り始めるはずだ。他の社員による補助を付けてくれることもある。
態度を緩めた直後に、色々と成果物で修正すべき点を聞き出して、そのまま承認まで持っていこう。
ただし、これをやりすぎると「彼は付いてこれないな、心身を壊す前に別の部署に行かせよう」と判断される。
事前に、自分の能力を高めておくことが重要だ。