ジョブ型雇用始まる!大手SIerに動きあり

IT/SIer業界知識

ジョブ型雇用が日本企業で始まる

大手SIer(日立、富士通)ではテレワーク化の動きも追い風となり、ジョブ型雇用を本格導入する。

富士通、「ジョブ型」人事制度を導入 幹部社員から - 日本経済新聞
富士通は2021年3月期から、職務を明確にして働く「ジョブ型」人事制度を導入する。課長職以上の約1万5千人を対象に運用を始め、その後一般社員にも広げる。人工知能(AI)など高度な専門人材を採用するため、年収が2500万~3500万円の人事制度も導入する。世界的な人材獲得競争を背景に、人事制度を見直す。【関連記事】高度I...

優秀な技術職にとっては、今までも実質的には自身の専門性を活かした働き方となっており、大手SIerでもジョブ型雇用はさほどの抵抗なく受け入れられるのでは、と考えている。
では、技術者にとっての働き方はどのように変わるだろうか?

ジョブ型雇用とは「就社」ではなく「就職」

ジョブ型雇用こそが「就職」

まずジョブ型雇用というのは、職務範囲を明確に定義して、そこに当てはまる人を採用するという考え方だ。
職責範囲と裁量の幅が定められており、スキルや資格に合致していることが採用の条件となるので、新卒採用面接みたいにぶっちゃけ何で評価されたかわからない、なんてことがなくなる

採用地域や労働時間なども定義され、定めのない転勤などをさせられることもない。
こうしたことは今までも「地域限定社員」として採用してきた会社もあるが、実態としては転勤ありで何でもやらされる「総合職」と比べて、下位互換的な扱いをされていなかっただろうか。

ジョブ型雇用の浸透は、こうした単一線上での格付けから脱し、「総合職」と同格あるいはまったく別の評価軸がもたらされる
各々の専門性次第では、部長役員クラスよりも高い給与を得ることが出来るようにもなり、例えば日経の記事によれば富士通では高度AI人材に年収2500万~3500万円をオファーするという。

メンバーシップ型雇用は「就社」

一方、今まで日本企業がとってきた採用形態がメンバーシップ型雇用であり、先ほども言った通りいわゆる総合職。
「就職」という言葉が一般に広く使われるが、日本型雇用のもとでは実質的に「就社」と表現する方が正しい。

メンバーシップ型雇用では、総合職は会社組織の要となるために育成される。

部署も3年ごとにローテーションさせられ経理や営業も経験するし、数々の支部支社にも転勤させられる。
なぜこのようなことをするかというと、様々な部署や地方での経験を重ねることで、会社の全体像を把握することができるためだ。
さらに、あらゆる場所で顔見知りが増えるため、いざ部長職以上になった時に、全国にその人を知る社員が多数存在することになる。

誰ともよくわからない人間が役職になるよりも、企業内の統治はずっとうまくいく。

外部人材を管理職にあてたがる欧米の企業とは思想が違うことがわかるだろう。
この人材育成メソッドは、長いこと日本企業のコアコンピタンスでもあった。

なぜジョブ型雇用を取り入れるのか

ジョブ型雇用のメリットと言えば、高い専門性を備えた人材の評価をしやすくなることだ。
年功序列に縛られない評価は優秀な人材の活躍の場を広げ、人材獲得の一助にもなる。

おそらく背景として、高い専門性を持った人材をこれまで以上に日本企業が欲し始めたということでもある。
諸外国との競争に打ち勝つには、複雑化したビジネスに対応できる専門的な知見が必要となる。

メンバーシップ型雇用が会社の要を作るものであるとするなら、ジョブ型雇用は柱を作ることと言える。
特定分野で会社を強く支える人材を作り出したり獲得したりするための布石となる。

ジョブ型雇用下でジョブロールを変更したい場合は?

今まで技術畑でやっていたが、マーケティングもやった方が将来のためになると考えた場合はどうなるか。
欧米では大学に入りなおして勉強し、インターンにも行き、学位を取ったらマーケティング部門のマーケッターとして就職する。
このように、専門性が無いと雇ってもらえないので、「未経験でも大丈夫」が通用しない。
専門家としてのスキルが求められるので、相応の訓練を積まないといけない。

ジョブ型雇用のメリットと働き方の変化

スキルの棚卸を高頻度で行うようになる

職務範囲が明確になると、そこに自分のスキルが合致するかどうかをしっかり確認する必要が出てくる。
自分が何が出来て何が出来ないのか、しっかり把握しておく必要があるからだ。
部署をいくつも経験して、たくさんの地域を経験して、三年以上継続した仕事は無いが、さあ自分のスキルは何だ?と言われたときに黙り込んでしまう。
そういった状況を避けるために、半年に一回程度はスキル棚卸をすることが求められるようになる。

目指すべきキャリアを明確化でき、成長速度が上がる

ジョブが明確になることで、どのようなジョブに対して自身を当てはめていくかが定まる。
つまり、目指すべきゴールが定まるので、そこに向けてどのように自分のキャリアをデザインしていくかを考えるようになる。
当然、寄り道となるようなキャリアを選択するケースは減り、自分の専門性を高めることにまい進する。
結果的に人材価値の成長速度が上昇する。

何を勉強すればいいかが明確になる

スキルや資格が明確なので、どのような勉強をしたらいいかの整理がしやすい。

統計によると日本の社会人の一日当たり勉強時間はたったの6分だという。
普通に会社員をやっていると何を勉強したらいいのかがわかりづらいのも原因と思われる。

必要な勉強の明確化と、ジョブへ人を当てはめるという概念の後押しで、勉強をする人は増えるはずだ。

ジェネラリストの価値も失われるわけではない

高度な専門性を発揮するためには、会社経営に対し自分のスキルでどのようにコミットするのかという考え方も必要となる。
よって、広範な会社経営に対する知識の重要性は、今後も増していく。
専門領域を持ちつつ広範な知見も併せ持つ人材が価値を発揮することとなる。

年功序列を廃し純粋な成果主義へ

ジョブ型雇用の浸透によって、評価制度は成果主義に傾く。
「あいつ、エキスパートだと言って入ってきたのに、全然実績が上がらんな」となった場合でも、今までは政治力があればなんとか組織にとどまれたかもしれない。
しかし今後は成果が上がっていないのなら、職務を果たしていないとなるので、相応の評定や職階におさまることになる。

こうした成果主義は、テレワークとも相性がいい。曖昧な評価を排して、実際にどれだけ生産性があるのかを評価するのであれば、本質的に働く場所や時間は問われない。

技術者としては働きやすくなる?

いま既に高度な専門性を発揮して働いている技術者は、よりフリーランス的な働き方に変わっていくことが予想される。
これは、会社員であるがゆえに、労働時間や労働場所、給与に制限がかかってしまっていた状況を抜け出すことが出来る。

ただ、技術者はそういった優秀な人ばかりではなく、指示されながら出ないと動けない人も多いので(こういう人は「専門家」とは呼びづらいのだが)、今のスキルに不安を抱えている人は今からでも少しずつ勉強を始めた方が良いだろう。

 

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