今回のパンデミックの影響を受けて、業務のテレワーク化に踏み切る企業がどんどん表れている。
東京都などはリモートワークを導入する中小企業に対して補助金を出すようだ。
こういう事態になると、社会が大きく変容しますね。
リモートワークが推進されるのは良いことだと思います。
ぼくの会社も全面リモートワークになりましたよ。
私の顧客先の外資系企業も、欧米での蔓延状況を注視していたので、かなり早い段階でリモートワークに踏み切った。
顧客の管理部門も、システムベンダーも全員リモートワークに切り替わった。
こうしてみると、案外、その気になればすぐ切り替わるもんなんですね。事態が事態ということもありますが……。
リモートワークネタのネット記事なんかも、結構目にするようになりましたよ。
ニュースなどを見ていると、やはりリモートワークならではの問題を抱え始めた職場も多いようだがな。
また、なかなかリモートワークが進んでいない現状もある。
厚生労働省がLINEを通じて行った調査では、現在リモートワークで働いていると回答した人は5.6%だそうだ。
飲食とかスーパーとか、リモート化が不可能な職業も多いですが、それでもまだ5.6%しか無いんですね。
管理部門なんかはリモートワークにしても差し支えないと思うんですが。
知り合いのSIer勤めの人に聞いて回ってみたが、すんなりリモートワーク化したところもあれば、まだまだリモートワークに踏み切れておらず社員を出社させているところもあるようだ。
うーん……IT企業であるSIerですらそういった状況なんですね……。
IT企業であるにもかかわらず、SIerがリモートワークに踏み切れていない理由はいくつかある。
今回は個人的に聞いた話をご紹介しよう。
SIerのリモートワーク化推進を阻むものは?
セキュリティ上の懸念は依然として存在
とあるアプリケーションの保守を行っている現場の話だ。その現場は、指紋認証等による厳格な入退室管理がされているセキュアな区画の中にあり、保守契約している複数の企業からVPNを引いて、それを通じて顧客企業のシステムにアクセスしている。言ってみればその現場自体が「リモート環境」で運用されている。
この現場では、パソコンをはじめUSBなどの情報機器の持ち出しも厳禁であり、したがって未だに社員を出社させているらしい。
あー、なるほど。そういう閉じた環境を作ってセキュリティ管理していると、自宅からのリモート環境に切り替えるのは厳しいですよね。
セキュアで閉じた環境を作ってしまった分、社会がこのような状況になってしまったときに対応が難しくなったわけだな。
その現場はあまり広くないので、セキュリティの高さが仇となって「3密」の状況が作り出されてしまった。
そういう保守運用センター的にやっているところは、大きな課題に直面しているわけですね。
逆に、客先常駐で導入や保守をやっているSIer社員であれば、顧客がリモートワークになったのに合わせて、自分たちもリモートワークに移行できているな。
客先常駐は、お客さんの方針に合わせて行動できるから良いですね。
お客さんが事業所閉鎖するって言ってるのに、自分たちだけ「セキュリティが~……」とか言って居座るのは変な話ですから。
しかし、セキュリティ問題は依然として存在しているのを忘れてはならない。
ある企業では、最も多い情報セキュリティ事故は「事業所外でのPCの紛失」となっている。
PCを持ち帰る際に、電車の網棚に忘れたり、飲み会で注意力散漫になってどこかに置き忘れたり、置き引きに狙われたりといったものだ。
顧客のPCを紛失したりしたら目も当てられませんね。普段、顧客の基幹システムにアクセスしてるようなPCを盗まれたらと思うと……。
機密情報を漏洩させてしまったとあればタダでは済まないからな。
知り合いは自社PCを部下が外で無くしたせいでボーナス無しの処分となった。
でも、人によってセキュリティ意識に差がありますからね。
部下が紛失するとかいうリスクまで考えると、上司もリモートワーク化を進める気が失せるんじゃないですか。
個々人で運搬させたり管理をさせると、そういったケースも発生してしまう。
対策は出来ないんですか?
鍵付きキャリーケースを用いて、個々人で運ぶのではなく業者に届けてもらうとか、いろいろ方法はあると思う。
例えば、ヤマト運輸では「重要物安全配送支援サービス e-ネコセキュリティBOX」というセキュアな配達サービスを行っていたりもする。
へえ、そんなのもあるんですね。
リモートワーク増加に伴い、こういったサービスを活用する社会的需要が高まれば良いな。
紙文化のせいで物理的制約から抜け出せない
知り合いの保守しているアプリケーションでは、顧客の職場内にあるスキャナから領収書などを取り込んで、ソフト上の伝票に添付することができる機能がついている。
これにより承認フローを回したりなど、物理的な手順が顧客の業務フローのなかに組み込まれている。
このため、その顧客がリモートワークかに踏み切った後も、証票類の読み込みのためだけに社員が出社している状況があった。
紙文化とかハンコ文化とかが根強いと、そういう面倒な状況が起きてしまいますね……。
流石にこの事例では、すぐに部門長同士が協議して業務の仕組みを変更したようだが、物理的に何かをしないと回すことが出来ない管理部門というのは、まだまだ日本全国にあるだろう。
そういったものも、ITで解決していくのが本来のSIerの仕事な気がしますけどね。
その課題解決をするためには、顧客のIT投資のモチベーションを上げることから始めないといけない。
いままでIT投資を重視しておらず紙文化が根強いところは、今回のパンデミックのような状況に直面して初めて頭を悩ますわけだ。
しかし、コロナ不況に陥ったせいでIT投資に回すお金がない……という悪循環に陥る。
残念な状況ですね……。
こういった事態にも強靭に対応できる企業というのは、普段からIT投資をしっかり行っている企業と言い換えることもできる。
これからの時代、IT投資が出来ているかどうかで明暗を分けることが多くなるだろう。
従業員のモチベーション低下の懸念
職場と違って自宅というのは色々誘惑も多いですし、周りの目も無いので、サボろうと思えばサボれてしまう環境ですよね。
衆人環視の緊張感が一定の仕事効率を生み出しているという側面は確かにある。
SIerに勤める友人も、職場と比べて緊張感が減ってしまったと言っていた。
楽しんで能動的にやっている仕事なら、周りの目があろうがなかろうが意欲的に取り組むと思います。
しかし、多くの会社員にとって仕事は「やらされている」ものに過ぎないので、周りの目がなくなればつい、PCの前から離れてしまうこともあるのではないでしょうか。
リモートワークがどうこうの前に、外回りの営業が顧客先に行かずコンビニの駐車場で昼寝していた、なんていう笑い話もよくある話だ。
監視が無いとサボりやすいという心理は、別に新しいものでもなんでもない。
そういった社員をどう管理するか、あるいは監視するかみたいな記事もちらほら見るようになりました。
PC上の画面をランダムにスクショして上司に送る監視ソフトもあるとか。
The Wall Street Journalの記事があったので、有料記事だが紹介しよう。
興味があれば会員登録すると良いと思う。
『在宅勤務「ちゃんと働いているか」企業は監視ソフト』
過度に監視されると、監視疲れで逆にストレスになってしまいますよね。
それに管理する側も良い気分がしないと思います。
まあ、監視を強化したところで、問題の本質的解決には至らないと思う。
サボっていても大丈夫な人員体制であること自体に問題があり、リモートワークでそれが炙り出されたに過ぎないと考えている。
自主的・意欲的に仕事をしていれば、働く場所がどこであろうとアウトプットを出そうとする意識に変わりはないはずだ。
やはり、簡単にはクビにできない制度や、それに胡坐をかいてしまう社員が出てしまう仕組み自体に問題があるのだ。
フリーライダーさんは、配置換えでどっか行ってもらうとかって出来ないんでしょうか?
フリーライドに近い状態の社員であっても、一応最低限の仕事などをしている場合も多い。
実はこれが一番話を難しくしている要因なんだ。
どういうことでしょう?
「全く仕事をしていない、アウトプットゼロの社員」であれば話は単純なのだが、フリーライダー問題の本質はそこにはない。
「その人にかかっているコストに比して全く十分なアウトプットを出していない、しかし最低限担っている仕事がある」という状態が一番難しい。
引継ぎなどを考慮すると、交代させるにも手間がかかるし、加えて、新規人員を探す場合は時間やコストもかかる。
なるほど。「全く単価に見合ってないが、ちょっとだけ働いてる」という状態が、事を難しくしてるってことですか。
そういうことだ。
SIerは古株社員ほどこういう傾向があると思う。長く経験しているので、その人しか知らない部分があり、交代させた途端に問題が起きるリスクがある。しかし意欲も低いので、そういった代替の難しい部分以外はポンコツだし、単価に見合うアウトプットを提供していない、という状態だな。
でも、「代替が難しい」のであれば、そこにコストがかかるのは仕方ないんじゃ?
代替が難しいと言っても、「不可能」なわけではない。
良い人が見つかればすぐにでも代えたいが、体制改革の意欲が現状維持に打ち克つことが出来ないでいるのだ。
忙しい現場マネージャーほど、こういった忸怩たる思いを抱えているだろう。
そうすると、なんとか意欲を持って仕事してもらえるように、対話の仕方や振る仕事などを調整するとかですかね。
その戦略を取る場合はまず、モチベートする側の教育が必要だな。他人をモチベートする技術は難しい。
まあ、優秀な人、アウトプットをしっかり出す人、勉強をしっかりしている人に報酬が集中するようにし、過度な平等分配主義はやめるのが一番早い解決方法だろう。働きに単価に見合った単価であれば、問題ないわけだからな。
社員間のコミュニケーション不足による生産性低下も
SIerの友人によれば、同僚間で会話する機会もめっきり減ったそうだ。
それは事実だろう。SkypeやZoomでわざわざコールして、何を話すかと思えば雑談では、さすがに気が引ける。
結果的に会話の機会は減ってしまう。
でも普通、雑談のような「時間の無駄」は無い方が良いと言われますよね。それは良いことなのではないでしょうか?
過度に時間を取られる雑談はよくはないが、コミュニケーションが少ないのも問題だ。
社員間のコミュニケーションを重要と位置付ける企業は多い。
なるほど。
実際に、リモートワークによるコミュニケーション不足が生産性低下を引き起こしたという、IBMの事例があるので紹介しよう。
実はIBMは30年前から働き方の多様性を実現するためにリモートワーク化を進めており、2010年代には全社員の40%がリモートとなっていたとされている。
しかしその後、2017年にリモートワークを廃止し、オフィス勤務に切り替えた。
そんなに古くから取り組んできたのですね。でも、どうして廃止してしまったのでしょう。
イノベーションはちょっとした社員間のコミュニケーションから生まれると言われており、リモートワークではそういう「ちょっとした会話」を行う環境から遠ざかる。
さらに職場の理念などについて共有したり確認する場も限られてしまうので、結果的に社員としてのまとまりがなくなってしまう、ということだな。
なるほど。確かに、目の前の仕事をするだけでなくて、人が集まって知恵を出し合うからこそ生まれるものもありますよね。
リモートワークを上手く使おう
さて、リモートワーク化が進まない理由をいくつか挙げてきたが、しかしながらリモートワークにメリットが多いのも事実だ。
多くのサラリーマンを悩ませている満員電車通勤からの解放や、睡眠時間の確保、家族との時間の確保など、働き方改革推進の上で欠かせないのがリモートワークだからだ。
要は、デメリットを知りつつ、上手く使おうってことだと思います。
リモートワークに向いてる人、向いてない人なども居るわけですよね。
そうだな。リモートワークの方が実力を発揮できる人、放っておいてもどんどん仕事する人はリモートワークを適用すればいい。
衆人環視がなければ緊張感が持てない人は出社させるという風にしても良い。
新型コロナ禍が収まった後は働き方が多様化すれば良いなと思う。ナイル川が氾濫した後、肥沃な大地を遺していくようにな。
新型コロナウィルスの感染が収束したら結局、日本全国が元の働き方に戻ってしまったなんてならないと良いですけど。
リモートワーク導入できないSIerの動向を見ていると、そういうことになりそうな感じもあり、少し懸念をしている。
セキュリティや紙文化を理由に推進できていないIT企業は、ちょっと考え方を見直した方が良いと思う。
たしかに、IT企業の名折れですからね。
災禍の後には福も来るものだ。
今回の事を機に、働き方改革を進め、決して元の木阿弥にならないように各企業が取り組んでほしいものだ。
さて、それでは今回はこの辺にしようか。
ありがとうございました。