【SAP SD知識】SAP与信管理機能について分かりやすく解説

SAP SD

与信管理(Credit Management)とは、顧客あるいは顧客グループ会社毎に債権額や受注可能額の上限(与信限度:Credit Limit)を設定して管理することで、「顧客の支払い能力を大きく超えて財やサービスを提供してしまった結果、代金回収が出来なくなってしまった」などという状況を回避するためのものだ
取引先の財務的な信用度を管理するという位置づけとなる。

SAPにおける与信管理機能では、受注や出荷を入力した際に、該当顧客からの総未払い額(債権や受注残含む)が一定額以上を超えた場合に警告を出したり、エラーで後続処理を停止させたりする制限を設けることができる。

今回はSAPの与信管理機能について、基本的なカスタマイズと運用を解説する。

なお、業務的には債権管理の一部として経理部が担うこともあるのと、カスタマイズもFI領域にまたがるので、FIコンサルが与信管理周りを担当することもあるが、機能的にはSD領域の画面内で働く部分が大きいため今回はSD機能として分類する。

SAP与信管理機能について解説

※S/4とECC6.0より前のバージョンとでは、いくつかの機能が廃止や移動するなどして、与信管理関連のカスタマイズが異なる場合がある。今回は基本的にはS/4ベースの環境を前提として説明する。

与信管理の目的

資金繰りがうまくいっていない企業で、支払いを行うためのキャッシュが枯渇している場合、財やサービスの提供を行ったとしてもそれに対する支払いが遅れたり、下手をすればそのまま倒産されて代金が回収できなかったりもする。

そうした意味で、初めて取引を行う企業は、その企業の信用度や格付け、財務状況などを総合的に審査して取引を行うかどうかを決定することとなる。与信管理は、そうした審査プロセスの中で、相手企業に対してどこまでの受注可能上限額(債権残+受注残)を許容するか(信用するか)を決定するもの。

代金回収リスクを抑え、自社の資金繰り状況を悪化させないためにも与信管理は重要となる。

当然、取引をしているうちに支払いに滞りが無く信用できる相手とわかれば、与信上限を引き上げて、より相手との取引規模を拡大するなどといった対応も必要となってくる。

与信管理のカスタマイズ設定

定義:与信管理領域

SPRO >企業構造 >定義 >財務会計 >定義:与信管理領域

与信管理領域はSAPにおける組織定義の一つで、与信管理を行うための組織を定義する。
一般的には会社コードに紐づけて運用し、複数の会社コードにまたがって割り当てることができる。

主なパラメータは以下のものがある。

・更新グループ
得意先の与信チェックを行う際、どこまでを与信利用(未納入金)として捉えるかを制御する。
受注残のみとするか、受注残・出荷残を対象とするか、受注残・出荷残・債権残までを含めるのか等。

割当:会社コード->与信管理領域

SPRO >企業構造 >割当 >財務会計 >割当:会社コード->与信管理領域

与信管理領域の会社コードへの割り当てを行う。
基本的に、与信管理領域(与信管理を行う組織)が中央化されているという場合、全会社コードに対して有効としておく。

登録:与信セグメント

SPRO >ファイナンシャルサプライチェーンマネジメント >与信管理 >与信リスクモニタ >マスタデータ >登録:与信セグメント

与信限度の計算を行うためのセグメント単位。
与信管理領域に対して割り当てを行う。また、得意先に対し与信セグメントごとの与信限度設定および与信限度計算を可能とする。

割当:与信管理領域および与信管理セグメント

SPRO >ファイナンシャルサプライチェーンマネジメント >与信管理 >債権管理及び販売管理との統合 >販売管理との統合 >割当:与信管理領域および与信管理セグメント

与信管理領域に対し、与信管理セグメントを割り当てる。

定義:チェックルール

SPRO >ファイナンシャルサプライチェーンマネジメント >与信管理 >与信リスクモニタ >与信限度チェック >定義:チェックルール

チェックルールを定義し、チェックルールの中にチェックの個別ステップを定義する。
個別ステップには標準でいくつかのチェックが定義されている。

例えば以下のような定義もある。(BAdIを用いてユーザ定義を追加することもできる)
・010:与信限度使用の統計チェック 
債権残、受注残、出荷残が与信限度を超えていないかどうかをチェックする。
・020:最大伝票金額のチェック
受注伝票に入力可能な最大金額を制限する。
(「チェック」下の「与信セグメント」にて、ステップと与信セグメントの組み合わせごとに最大金額の値を指定する)
・100:最大督促レベルのチェック
得意先マスタ(BPマスタのロール:SAP Credit Management)の与信セグメントデータ下にある「支払い行動キー数値」に関わるチェックを行う。

定義:自動与信管理(Tr:OVA8)

SPRO >ファイナンシャルサプライチェーンマネジメント >与信管理 >債権管理及び販売管理との統合 >販売管理との統合 >定義:自動与信管理

「与信管理領域」「リスクカテゴリ」「伝票与信グループ」を定義し、それらのパラメータごとに以下を制御する。
・SAP与信管理:与信チェックを実行するかどうか
・リアクション:限度を超えた場合の挙動(警告またはエラー)
・ブロック:伝票にブロックステータスを設定するかどうか

「伝票与信グループ」は、受注および出荷でチェックをかけるかどうかにかかわる。

定義:リスクカテゴリ

SPRO >ファイナンシャルサプライチェーンマネジメント >与信管理 >債権管理及び販売管理との統合 >販売管理との統合 >リスクカテゴリ

取引先のリスク度合いを表すパラメータ。
先述の自動与信管理のパラメータの設定キーの一部。

登録:リスククラス

SPRO >ファイナンシャルサプライチェーンマネジメント >与信管理 >与信リスクモニタ >マスタデータ >登録:リスククラス

上述の「リスクカテゴリ」に類似するパラメータ。
リスクカテゴリはSDモジュールに属するパラメータで、リスククラスはSAP Credit Management(CR)に属するパラメータとなっている。
異なるパラメータ設定ではあるが、実はつながっており、自動的に読み替えが行われる。
与信管理の設定上は、リスククラスとリスクカテゴリは同一のものと捉えても差し支えない。

リスククラスは得意先マスタ上で得意先に割り当てる。リスクカテゴリは自動与信管理のパラメータの設定キーの一部であり、「伝票与信グループ」との組み合わせで与信チェックのタイミングを制御する。
この二つのことから、得意先のリスククラスに応じて与信チェックの箇所を制御するパラメータとしても使える。

決定:有効な売掛金(明細カテゴリ別)

SPRO >ファイナンシャルサプライチェーンマネジメント >与信管理 >債権管理及び販売管理との統合 >販売管理との統合 >決定:有効な売掛金(明細カテゴリ別)

与信限度チェックを行う対象の明細カテゴリをチェックする。

定義:与信リスクカテゴリ

SPRO >ファイナンシャルサプライチェーンマネジメント >与信管理 >与信リスクモニタ >与信リスク更新 >定義:与信リスクカテゴリ

※上述のリスクカテゴリとは違うパラメータなので注意
得意先がカテゴリごとにいくらの与信利用額があるかなどの、統計目的で使うカテゴリ。
例えば「タイプ100:未処理オーダー」は受注伝票の受注残金額(未回収金額)に該当する。
与信管理のレポート機能の一つ「与信リスク合計(Tr:UKM_COMMITMENTS)」では、与信リスクカテゴリごとの与信利用額がいくらであるかが表示される。

このカスタマイズは、画面によっては「債務カテゴリ」という画面名称として表示される。
余談ながら、英語では当該カスタマイズは「Credit Exposure Category」となっており、債務は関係ないので、この翻訳はあまり頂けないと思っている。

与信管理のマスタ設定(得意先)

BPロールの設定(SAP Credit Management)

S/4から得意先・仕入先はBP(Business Partner)に統合され、BPオブジェクトに対し得意先・仕入先の「ロール」を割当・拡張することにより運用する形となった。
与信管理を行うためには、BPに対して「SAP Credit Management」のロールを付与し、与信管理関連の設定を行う。
ただ、ベースとしては従来の得意先マスタと変わっていない部分も多い。

一般データ

タブ【与信プロファイル】
・項目:リスククラス
得意先のリスククラスを設定する。
リスククラスの役割については先述のカスタマイズの通り。

・項目:チェックルール
予めカスタマイズしたチェックルールを得意先に対して割り当てる。

タブ【与信データ】
信用状況や信用ステータス、格付けといった、得意先に対する定性的な信用情報を記録する。

与信セグメントデータ

タブ【与信限度及び管理】
・項目:与信セグメント
得意先に対する与信セグメントを決定する。

・項目:限度定義済(与信限度額)
与信限度額を設定する。与信限度を得意先の信用情報より自動計算させることもできるが(リスククラスも自動設定が可能)、マニュアルでの与信限度設定も可能。

与信管理の運用

伝票登録時の与信限度チェック

受注伝票や出荷伝票の登録時、与信限度を超える金額が入力されると与信限度のメッセージ(警告・エラー)により通知、後続処理の停止などが行われる。

伝票登録中に発生した与信チェックのログは以下のトランザクションで確認できる。

・SAP与信管理ログ(Tr:UKM_LOGS_DISPLAY

与信ブロックの解除

以下トランザクションにより与信ブロック中の受注伝票・出荷伝票を一覧にし、ブロックを解除したい対象を選択して解除を行うことができる。

・販売管理伝票(Tr:VKM4

与信レポート

・与信限度額仕様一覧(Tr:UKM_MALUS_DSP)
得意先、与信セグメントごとに与信の利用額および与信限度、限度使用率などを確認できる一覧レポート。

・与信リスク合計(Tr:UKM_COMMITMENTS)
得意先、与信リスクカテゴリごとに与信の利用額などを確認できる一覧レポート。

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