早いもので5月も中旬を過ぎようとしているが、4月入社の新人はまだまだ緊張が解けない時期だろう。
今年の新人SEは、入社して顔見せもそこそこにリモートワークになっちゃった人も居そうですよね。
そうだな。コロナのせいで例年と違って色々と特殊な事情もあり、それのせいで新環境に慣れづらい状況があるかもしれない。
しかし、それでも季節は流れていく。新人教育期間を3か月としている会社であれば、もう既に半分が経過してしまったわけだ。それが終われば、今度はOJTが始まる。
OJTになったら現場に出て、先輩や上司の仕事を見ながら働くわけですね。
そうなると年齢も性格も違う集団の中で仕事をするという状況に身を置くのだが、これは同年代の人間が大勢同じ教室で過ごす学生時代と大きく異なる点だ。
年齢や職階に基づく社会的序列をしっかり踏まえた上での礼節と適切な言動、行動が求められるわけだ。
上司や先輩に気に入ってもらうためのコミュニケーション能力が必要ですね!頑張れ新人!
しかしながら、そんな中にあって、あまり部活やバイトなどで年齢差による序列を経験してこずに社会人になってしまった人や、いわゆるコミュニケーション能力の低いもいる。そういう人たちは、年功序列から形成される日本的な企業精神文化の中では、けっこう生き辛い思いをすることになる。
あー。職場に溶け込めなかったり、職場の飲み会のノリについていけないタイプってことですか。
そうそう、そんな感じの人は一定割合いると思う。そういう人たちは、職場というコミュニティを維持するための振舞いや活動に、あまり意義を見出せていないので、積極的にコミュニケーション能力を磨いたりする方向への努力も、いまいち食指が動かない。
うーん、そうなるとなかなか職場になじめずに、仕事も楽しくなくなっちゃうんでしょうか?
いや、仮に職場への恭順を示さなくとも(恭順の示し方が良く分からないと思っていたとしても)、仕事そのものには真面目に取り組んだり、新人なりに課題を解決しようと模索したり、技術を勉強をしたりする人も、中には存在するわけだ。とくにSEの新人なんて学ぶことだらけだしな。
職場に馴染めないからって、早期に腐ったり転職を繰り返したりといった人とは少々ちがう人種だ。
なるほど。
そういう人が上司から受けがちな評価というのが「お前は可愛げがない」というものだ。
おっさんらと飲み会していると、新しく入ってきた部下の愚痴でありがちなフレーズだぞ。
おお。そういえば、ぼくの職場でも、そういう評価をされてた新人もたまにいましたね。
こういう新人は、結構真面目に仕事をこなし、新人としては高い水準で仕事を遂行するし、常に高い品質を目指そうとする。業務やスキルそのものに着目して仕事をしようとする。半面、そのぶん余裕がないので、年功序列的な世界観でまわりを見渡すことができず、結果として上司先輩からはあまり可愛く映らない。
「可愛げがない」ですかー。
でもまあ、仕方ないんじゃないでしょうか?
上の人間からすると、懐かないネコちゃんみたいなもんですよね。
その点はその通りで、仕方ない。序列の厳しい世界を経験してこなかったくせに、なぜか日本国内資本の年功序列な会社に就職することを選んじゃった本人の責任はある。
しかしながら、「職場に馴染めていない」とか「上司先輩とうまいことやれてない」とか「自分はコミュ力低いなあ」とかは本人なりにも感じ取っていて、悩んでもいるんだ。新人の悩みを聞く場を設ければ、これも割と耳にする悩みだと思う。
あら……。
そうすると、「お前は可愛げがない」なんて言われると、新人のお悩みポイント直撃の指摘になりますから、グサッとくるんじゃないでしょうか?
その通りだな。そしてコミュ力の低さも祟り、上司が思ってる以上の重さで真に受けるので、その翌日から死んだ目をした新人が出来上がる。
うーん、そうなると可愛そうですよね。
「可愛げがない」で落ち込まなくていい理由
まず可愛げがあるとはどういう状態か
ペンちゃんは可愛げがある後輩に当たったことはあるか?
まあ、ありますね。なんだかわかんないけど先輩を立ててくれて、職場の和ませ役って感じで、なにかと頼ってきてくれると、可愛げがあると思っちゃいますね。
そういうタイプの後輩は確かに可愛げがあるな。
入りたての新人というのは、そもそも仕事の出来不出来を評価されるレベルに無いので、社会人としての振舞い方などで評価されやすいし、新人の期間というのは集団内の不文律を学ぶ時期でもある。
そういう時期だからこそ、上司先輩に覚えが良いかどうか、つまり可愛げのあるなしで評価されがちなんですね。
その通り。それはある意味、新入りの試練であり、ニュー・カマーの宿命であるともいえる。しかしそんな時期に、周囲の「人」にあまり目を向けず仕事内容ばかり注目していると、「可愛げがない」という風に評価されてしまうわけだ。
なるほど。ちょっと生意気に映ってしまうこともあるかもですね。
逆に言うと、新人というのは仕事が多少できなかろうが何だろうが、可愛げがあれば見過ごされるということだな。
仕事に対する意識が高いが故に「可愛げがない」
ここでよく留意してほしいのが、仕事に対する姿勢に問題がないがゆえに「コミュニケーション能力の低さ」が炙り出され、「可愛げがない」という指摘につながっていることだ。
えーと、つまりこういうことですか。しっかりしててマトモそうなのにコミュ力が低いからこそ、そこが気になる欠点として浮き彫りになってしまうと。
そういうことだ。それがゆえの「可愛げがない」なので、裏を返すと仕事姿勢に問題がないと思われているということでもある。
たしかに仕事の姿勢にも問題あってコミュ力も低いとなったら、もっとそれ以前の評価になってますよね。
「この新人終わっとる……」みたいな。
人は誰しも欠点がある。その欠点がたまたま、ある新人にとっては「コミュニケーション能力」だっただけだ。
コミュニティに生きる大多数の人にとって、コミュ力の多寡は真っ先にくる関心ごとなので、それにより人物像全体を評価されがちだ。しかし、人材価値という観点から見た場合、コミュニケーション能力というのはOne of themの要素に過ぎない。
そう考えると、「自分はコミュ力が欠点だ」と思っている新人、あるいは就活生なんかも、まずは落ち込まずに気を取り直してほしいですね。
いままでがコミュニケーション能力を偏重しすぎた
10年ほど前は、会社が求めるスキルの第一に来ていたのが「コミュニケーション能力」だった。状況に応じた適切なコミュニケーションを図り、周囲とうまく調和する能力が、かなり評価された時代だった。個人的な意見としては、これは新卒採用思想に異常な偏りがあった時期と言わざるを得ない。
異常な偏り、ですか。
当然ながらコミュニケーション能力だけでは仕事はまわらない。個々の業務に対する専門的な理解をする能力や、知識を活用して自主的に課題を発見していく能力などとのバランスが重要なのにも関わらず、当時の採用担当者への新卒に求める能力のアンケート結果は「コミュニケーション能力」への偏りが酷かった。本来は、求める能力は色々な能力に分散されなければならない。
でも、職場の調和だって大事ですし、職場のおじさんたちとうまくやっていく若者の方が可愛がられますから、コミュニケーション能力重視なのは自然なことにも思いますが……?
いや、そもそもの話、イノベーションを生み出すためには、むしろ周囲との軋轢を恐れない能力も、会社にとっては必要な能力なはずだ。社内に新しい風を入れるのが、本来の新卒採用の在り方なわけだからな。
プロジェクトの現場とかにアサインすることを考えると、チーム荒らしみたいな人が来たら嫌ですけどね……。
でもまあ、異質なものを取り込むっていうのも必要かもしれません。
当時の企業が求めていた「コミュニケーション能力」は、上司や先輩に気に入られて、いわゆる「たばこ部屋人事」で社内のキャリアを積み上げていくような「コミュニケーション能力」の域を出ていなかったのではないかと、振り返って思う。
自社の人材基盤を再生産するのにちょうどいい人材ばかりを求めていたのではないか、とな。その悪習は今も続いてはいるが。
なるほど……。
しかし、いまや大企業でも経営があっという間に傾いたり、早期リストラを敢行する時代になってしまった。
そうすると、社内で通用するコミュニケーション能力は、相対的に価値が下がってくる。かわりに、明日会社がつぶれたとしても問題ないスキルを持つことの価値が上がってくる。
コミュ力の価値は減って、仕事力の価値が上がるんですね。
そうなると、「可愛げがない」と言われた新人というのは、むしろ人材価値としての自分の能力値振り分けに、むしろ成功しているのではないかということだ。これからの時代に適合したパラメータ配分になっているということだ。
そういうことですか。むしろ彼らの時代になると?
とくにSEなんていうのはスキルさえあれば何とでもなるし、会社から出て自営業にでもなった方が高単価もとれる。
まあー、言ったらなんですけど、口先だけでは技術者は出来ませんからね。
そういうわけで、「可愛げがない」と言われた人はチャンスだ。
コミュ力は残念ながら簡単には向上しないのだが、そこの改善に時間を注ぐくらいなら、業務理解やスキル獲得に時間を使おう。
それに、コミュ力もなんだかんだ社会人を10年くらい続けていれば少しはマシになることもある。
一方、仕事のスキルというのは、意識的に勉強しないと身につかない。漫然と仕事をするだけでは絶対に習得できないものだ。
なるほど。下手にコミュ力向上に時間を投入しない方が良いということですね。
もちろん、コミュニケーション能力があって上司先輩に気に入られつつ仕事能力も高いのが理想なのではあるが、職場でうまくやっていくためのコミュニケーション能力と純粋な仕事能力を比べたら、後者の方が価値のある時代になっている。
なんでもできる人なんてそうそういないですしね。
職場の飲み会で上手く立ち回ることより、自分のスキルを磨くことに注力した方がよさそうです。
そういうわけだ。
ちなみにペンちゃんはどんな新人だったんだ?
うーん、ぼくは可もなく不可もなく、仕事もそこそこコミュ力もそこそこで、すべてが中央値だったかも……。
あー。それは影が薄くなって認知されなくなるパターンだな……。ペンちゃんらしいかもしれんが。
……。ぼくもパラメータ配分を再考します。そんな戦士職でも魔法職でもない使用頻度が少ないキャラみたいなのイヤです。
まあ、そういうわけで、新人SEの諸君は落ち込まずに、スキル磨きを頑張ってくれ。