SAPの需要予測機能を使用する上で、前提となる各種設定(品目マスタ需要予測タブの設定、需要予測プロファイルおよびMRPタイプ等のカスタマイズ設定)について解説する。
設定内容は、需要予測機能のうち、「品目需要予測」を使用するか「販売事業計画」の需要予測機能を使用するかによって、設定箇所が異なる。
・品目需要予測
・販売事業計画からの需要予測
SAP需要予測機能の設定方法
需要予測機能を使用するために必要な具体的な設定について解説する。
なお、需要予測の各種モデル、指数平滑法、初期化といった知識は下記記事にて解説しており、本記事(②設定編)の前提知識となっているので、未読であればこちらを先にご参照頂きたい。
品目需要予測の設定
品目需要予測(Tr:MP30)を用いて需要予測を行う場合の設定方法について解説する。
品目マスタ需要予測タブ
品目需要予測(Tr:MP30)を用いて需要予測を実行する場合は、品目マスタの需要予測タブの設定を予め行う必要がある。
需要予測タブの主要項目について、設定すべき値とその意味を各々解説する。
1.需要予測モデル
2.期間区分
3.消費参照品目
4.履歴期間
5.需要予測期間
6.季節内期間数
7.初期化 履歴値
8.初期化
9.警告限界
10.自動リセット
11.モデル選択
12.モデル選択方式
13.パラメータ最適化
14.最適化レベル
15.加重グループ
16.平滑化係数(α、β、γ、δ)
17.需要予測実行
18.需要予測値
19.消費値
20.需要予測プロファイル
1.需要予測モデル
品目の消費傾向に応じて適切なモデルを選択する。
選択可能なモデルをいくつか抜粋して紹介する。
2.期間区分
品目の消費量と需要予測のための期間単位を定義する。
・W:週次
・T:日次
3.消費参照品目
他の品目の消費実績を参照して需要予測を行う。
新規品目でまだ実績がない場合、類似品ですでに実績のある品目コードを参照して需要予測を行うことが出来る。
4.履歴期間
需要予測計算の際に参照する過去データの期間範囲を指定する。
5.需要予測期間
何期先までの需要予測を計算するかを指定する。
6.季節内期間数
季節変動が一巡する期間数。通常は1年=12期。
7.初期化 履歴地
需要予測計算を行う際の、基準値、傾向値、季節変動値の初期値を求めるために用いる、過去データの期間数を指定する。
8.初期化
初期化を行うかどうかのフラグ。
初期化は、需要予測計算を行う際、基準値、傾向値、季節変動値の初期値を求めるための処理となる。
9.警告限界
警告信号が項目「警告限界」に設定された値を超えた場合エラーとなる。
警告信号はエラー合計(実績値と予測値の絶対差の総和)を、平均絶対偏差で割った値として求められる。
(計算式はSAP Helpに載っているので、そちらも参照)
10.自動リセット
警告信号が警告限界を超えた場合、自動的に予測モデルを選択し直すかどうかを定義する。
11.モデル選択
需要予測モデルを自動選択する場合、値を指定する。
自動選択次、傾向変動のみチェックするか、季節変動のみチェックするか、その双方をチェックするかを定義する。
12.モデル選択方式
モデル選択方式には以下2つの選択肢がある。
以下②は①に比べて精度が高まるが、処理時間が長くなる。
傾向及び季節変動パターンの有無をチェックし、その結果に基づいて需要予測モデルを選択する。
②分析モデル選択手順
全ての需要予測モデルの実行と、パラメータの最適化を行った上で、平均絶対偏差が最小になるモデルを選択する。
13.パラメータ最適化
平滑化係数を自動で最適化するかどうかを定義する区分。
14.最適化レベル
平滑化係数最適化の粒度を指定する。レベルが高いほど最適な平滑化係数を細かいレベルで探索する。細かいほど処理時間は増す。
15.加重グループ
加重移動平均モデルを選択した場合に参照されるパラメータで、事前にカスタマイズしておく。
16.平滑化係数(α、β、γ、δ)
平滑化係数をマニュアル指定する場合は、ここに設定しておく。
β係数:傾向値を算出する際の指数平滑化定数
γ係数:季節変動値を算出する際の指数平滑化定数
δ係数:平均絶対偏差を求める際の指数平滑化定数
17.需要予測実行
需要予測を実行するためのボタン。
18.需要予測値
このボタンを押すと、小ウインドウがポップし、算出された需要予測値が期毎に一覧化されるので、手動で修正したい場合は「修正予測値」に手入力する。
19.消費値
品目の在庫が払い出された数量に応じ、総消費量と計画外消費量が期間ごとに登録される。
需要予測の過去データというのはこの値が根拠となる。
新規登録品目であっても過去の実績を手入力することも出来る。
品目の入出庫が起きるごとに、この値は更新されていく。
詳しくは後述「消費値(需要予測の根拠となる過去データ)について」で詳しく解説する。
20.需要予測プロファイル
画面上部のメニュー【編集 >需要予測プロファイル】から、品目に対する需要予測プロファイルを割り当てることが出来る。この割り当てにより、品目マスタの需要予測タブの各項目が、需要予測プロファイルの値で更新される。
予めプロファイルを登録しておくことで、各項目を各品目ごとに入力する必要がなくなる。
需要予測プロファイルは、Tr:MP80から登録する。
消費値(需要予測の根拠となる過去データ)について
移動タイプによる制御
消費値には総消費量と計画外消費量がある。
在庫移動を消費値として加算するかどうかは、移動タイプのカスタマイズによる。
以下は移動タイプの一例。
移動タイプのカスタマイズにて「消費転記区分」の項目に何らかの値が登録されていると、異動の際に消費値に加算される。
消費転記区分「R(総/計画外消費)」は、出庫時の条件(出庫予定に基づく出庫か否か)により総消費量となるか計画外消費となるかが分岐する。
消費転記区分のパラメータは以下から選択する。
MRPエリア内の消費
MRPエリア内の消費の場合、プラントレベルの消費量とは別集計となるので注意が必要。
MRPエリア内の消費量は、品目マスタの【MRP1ビュー >MRPエリア >消費金額タブ】から確認する。
例えばMRPエリアで指図への出庫(移動タイプ261)を行うと消費値として算入されるが、単純な保管場所間転送でMRPエリア外に出た場合は消費値として扱われない。
このようにMRPエリア内の消費に関しては留意点がいくつかある。
需要予測プロファイル(Tr:MP80)
Tr:MP80画面にて、定義するプロファイルのコードを入力する。
次画面にて、チェックボックスが並ぶ画面が出現する。
1.書込み保護
ここの列にチェックを入れた項目の場合、需要予測タブでプロファイルを読み込んでも、品目マスタの当該項目は上書きされない。
2.品目マスタの初期値
プロファイルを読み込んだ時に、当該項目を上書きする
3.「データ画面」ボタン
チェックボックスをチェックした項目について、各パラメータを設定する画面に遷移する。
MRPタイプ(Tr:SPRO)
MRPタイプのカスタマイズは【Tr:SPRO >生産計画/管理 >資材所要量計画 >マスタデータ >チェック:MRPタイプ】から設定する。
標準のMRPタイプでは、「VV(需要予測主導型 所要量計画)」という需要予測用のタイプが存在する。
MRPタイプのカスタマイズ画面に「資材所要量計画に対する需要予測の使用」という箇所がある。ここが需要予測の機能に関連する。
1.需要予測区分
2.消費区分 需要予測
3.MRP区分 需要予測
4.需要予測減少
5.安全在庫計算
6.発注点計算
1.需要予測区分
MRPで需要予測が考慮されるか否かを指定する。
(空欄:需要予測無し、+:需要予測必須、*:需要予測オプション)
2.消費区分 需要予測
計画外消費の実績、または総消費量の実績のどちらを需要予測の根拠とするかを指定する。
3.MRP区分 需要予測
需要予測の結果で発生した所要量を、計画外所要量とするか総所要量とするかを設定する区分。
4.需要予測減少
当月の需要予測量が、当月で既に消費された量を下回る場合、需要予測による追加所要を発生させず所要量削減を行う区分。
(空欄:来期以降の所要量も削減、1:当月のみ削減、2:平均値に基づく削減)
平均値とは、当月の需要予測量を当月の稼働日で割って一日当たりの予測量(平均値)を求め、当月の経過済みの稼働日数×一日当たりの予測量を、当月需要予測総量から削減する。
5.安全在庫計算
需要予測計算で安全在庫の考慮を行うかどうかを指定する。
6.発注点計算
需要予測計算で発注点の考慮を行うかどうかを指定する。
販売事業計画を用いた需要予測の設定
販売事業計画(Tr:MC87)を用いて需要予測を行う場合の設定方法について解説する。
需要予測プロファイル(販売事業計画用)
販売事業計画の需要予測プロファイルは【Tr:SPRO >生産計画/管理 >販売事業計画 >マスタデータ >更新:需要予測プロファイル】から設定する。
品目需要予測の需要予測プロファイルとは別物なので、注意すること。
設定項目は以下の通り。ほとんどの項目が品目マスタ需要予測タブと被っており、設定すべきパラメータはほぼ同じということだ。
1.履歴期間 FROM-TO
2.予測期間 FROM-TO
3.履歴期間数
4.予測期間数
5.予測方針
6.期間区分
7.期間/季節周期
8.会計年度バリアント
9.稼働日カレンダ
10.小数点以下桁数
11.最大履歴値
12.期間日数
13.消費
14.ゼロ消費無し
15.異常値
16.修正値
17.平滑化係数(α、β、γ、δ)
18.予測上限、下限
19.加重グループ
1.履歴期間 FROM-TO
需要予測計算の際に参照する過去データの期間範囲を指定する。
2.予測期間 FROM-TO
どの期間からどの期間まで需要予測を計算するかを指定する。
3.履歴期間数
需要予測計算の際に参照する過去データの期間数を指定する。
4.予測期間数
何期先までの需要予測を計算するかを指定する。
5.予測方針
モデルを選択する。品目マスタのモデル選択と同じ。ただしコードが異なるので留意が必要。
6.期間区分
消費量と需要予測のための期間単位を定義する。
W:週次
T:日次
7.期間/季節周期
季節変動が一巡する期間数。通常は1年=12期。
8.会計年度バリアント
会計期間内の期間数を決定するためのパラメータ。
9.稼働日カレンダ
どの稼働日カレンダに従うかを決定する。
10.小数点以下桁数
小数点以下の桁数を設定する。
11.最大履歴値
需要予測に使用する履歴値の最大数を指定する。
12.期間日数
需要予測の1期間ごとの稼働日日数。
13.消費
実績値を品目マスタの消費値基準とするか、計画バージョン準拠の実績値を基準とするかを決定する
14.ゼロ消費無し
実績値のゼロを無視する。
15.異常値
許容範囲外にある異常な履歴値を修正するか否かを決定する。許容範囲はシグマ係数により決定される。
16.修正値
修正後の履歴値を用いて需要予測する。元の実績値は参照しなくなる。
17.平滑化係数(α、β、γ)
平滑化係数をマニュアル指定する場合は、ここに設定しておく。
β係数:傾向値を算出する際の指数平滑化定数
γ係数:季節変動値を算出する際の指数平滑化定数
18.シグマ係数
履歴値の中の異常値に対する許容の幅を定義する係数。SAP推奨値は0.6~2.0の間らしい。
19.予測上限、下限
需要予測結果の下限と上限の定義。
20.加重グループ
加重移動平均モデルを選択した場合に参照されるパラメータで、事前にカスタマイズしておく。