SAP COのトップダウン付替(Top-Down Distribution)とは、収益性分析のレコード間での配賦を行う処理のことで、共通的なレベル(会社コードレベルや販売地域や製品グループのレベル)で発生する損益のレコードを、より細かい特性の収益性分析レコードに配分するためのものだ。
今回はトップダウン付替について解説する。
収益性分析のトップダウン付替について解説
トップダウン付替の目的
前提:収益性セグメントについて
収益性分析セグメントは、損益の分析を様々な切り口で行うことを可能とするため、その切り口を「特性」という形で保持する。
そうした特性(例えば会社コード、事業領域、製品グループ、製品、顧客、販売地域、等々)を切り口として損益を把握することで、利益の出る事業、利益の出ない製品というものを分析可能となる。
※以下図は収益性分析のイメージ。取引ごとにこのようなレコードが記録され、後に集計分析が可能となる。
収益性分析レコードの転記は、主に各モジュールの実績転記(損益勘定の転記を伴うもの)と連動して、収益性伝票を自動起票することで行う。
例えば、SDの請求伝票をリリースする際に、財務会計上でも売上が転記される。
その売上データには、どの事業において、どの製品が、どの地域で、どの顧客に、どれだけ売れたかという情報が紐づく。
これが収益性分析セグメントと呼ばれるもので、FI会計伝票の売上明細に収益性セグメントを紐づけることができる。
このような一つ一つの収益性セグメントのレコードを、集計やブレークダウンを行いつつ、収益性レポート上で損益の分析をしていくということだ。
なぜトップダウン付替が必要なのか
トップダウン付替は、収益性分析のレコード間での配賦を行う処理のことだ。
ところで、損益勘定の仕訳を伴う取引は、上述したような特性群(どの事業において、どの製品が、どの地域で、どの顧客に、どれだけ売れたか)が、具体的に決まらないようなものもある。
例えばタンカーで輸送する海運にかかる運賃などをイメージ頂きたい。
タンカーには多種多様な製品を格納したコンテナが積まれ、仕向港に到着後も複数の地域に輸送される。
このとき、この運賃の費用の収益性分析の特性値はどのように決定すべきだろうか?
このケースでは特定の製品や、特定の顧客の特性値を、その運賃の収益性セグメントに設定することができない。
よって、そうした細かな特性を設定せず、会社コードレベルや事業レベルといった広いレベルで転記を行い、製品や顧客といった特性は空欄の収益性セグメントを転記する。
こうした広いレベル(以降「トップレベル」と言い換える)で発生した費用を考慮せずにおくと、より細かいレベルでの収益性分析を行った際、「実は無視されたコストが存在する」ということになってしまう。
よって、トップレベルで発生した費用/収益は、予め決めた配賦ルールに従い、より細かいレベル(以降「ダウンレベル」と言い換える)に付替えていく必要がある。
これがトップダウン付替の概念だ。
考え方としては原価センタ間における配賦(以下記事)と同じ。原価センタ配賦では主に部門共通費の部門間配賦に用いるものだった。
トップダウン付替の仕組
実績データと参照データ
トップダウン付替は、「実績データ:配賦元の収益性分析レコード」と「参照データ:配賦の基準とする収益性分析レコード」が必要となる。
※なお実績データではなく計画データによる配賦もあるが、今回の解説では実績データを基にした説明で統一する。
どのような実績データを拾って、どのような配賦基準(参照データ)で配賦をしていくか、ということがまず定義されている必要がある。
この定義はTr:KE28から設定することができ、同トランザクションでトップダウン付替の実行までできる。
トップダウン付替のシナリオ
トップダウン付替が「実績データ」と「参照データ」を使ってどのように行われるのかを例示する。
・シナリオ
「実績データ」として、コンテナ輸送にかかった輸送費が50,000円あったとする。
輸送業者からの請求は、ある程度まとまった単位でのものとなるため、どの得意先・どの製品・どの案件(指図番号やWBS等)にかかったコストかは特定できない。
従って、この輸送費が50,000円の収益性セグメントは、会社コードと事業領域レベルのみ入力し、他の特性入力は行わないこととする。
この実績データは、何らかの基準により、配賦を行う必要がある。
この実績データの配賦基準として、「参照データ」を定義する。例えば、ある期間における得意先・製品・案件(指図番号)の売上高を基準に配賦することとする。
得意先・製品・案件(指図番号)の売上の比率に従って、実績データをもとに配賦レコードを作る。
すると、以下の図のようになる。
輸送費50,000円を、参照データの売上高比率に基づいて分配したレコード(配賦データ)が新たに作成された。
これがトップダウン付替の実行により配賦されて作成されるレコードだ。
さらに、元の実績データである輸送費50,000円に対し、輸送費マイナス50,000円のレコードも作成されている。これは元の実績データのマイナスを入れないと、金額が二重になってしまうためだ。
念のため補足すると、このマイナスはあくまで管理会計のCO-PA上で入れているもので、大本の輸送費を計上したFI伝票までキャンセルされているわけではない。
パラメータ:配賦、Copy、集計について
こうした実績データと参照データは、Tr:KE28(トップダウン付替)の画面より、各特性に対して「配賦、Copy、集計」のいずれかの値を割り当てることによって定義する。
(ラジオボタンになっているので、いずれかを選ぶ)
配賦:配賦先としたい特性項目を選択する
Copy:配賦元とする特性項目を選択する。
集計:配賦対象とはしない特性項目を選択する。
※選択可能なパラメータにもう一つ「Ref」というものがあるが、いったんこの説明は省略する。
今回は会社コード・事業領域レベルのデータを、得意先・製品・案件(指図番号)のレベルに配賦したい。したがって、以下のような設定を行う。
トップダウン付替の運用
トップダウン付替の実行(Tr:KE28)
トップダウン付替には、計画と実績のトランザクションがある。
Tr:KE28 トップダウン付替(実績)
今回はTr:KE28(実績)をベースに実行手順と主要項目を解説する。
トップダウン付替:第一画面
トップダウン付替の「実績データ」「参照データ」の概要を指定する。
以下に挙げる項目の指定が完了したら画面上部の【処理指示】により次画面(トップダウン付替:プロセス指示)へ遷移する。
実績データ
・開始/終了期間
実績データの対象期間を選択する。
・レコードタイプ
どの収益性分析のレコードタイプを実績データとするかを選択する。
参照データ
・開始/終了期間
参照データの対象期間を選択する。
・レコードタイプ
どの収益性分析のレコードタイプを参照データとするかを選択する。
・集計期間
チェックボックス。チェックすると、選択した期間にて集計・配賦する。チェックしなければ月ごとの集計になる。
・レコードタイプ集計
チェックボックス。チェックすると、全レコードタイプの集計で配賦する。チェックしなければレコードタイプごとの集計になる。
参照基準
・単一値項目
配賦基準となる値項目を、収益性セグメントとして定義しているものから指定する。
上述の『トップダウン付替の例示』で挙げたシナリオであれば「売上高」の値項目を選択する。
・値項目使用
配賦元の実績データの値項目を用いて配賦の比率を決定する場合は、こちらを選択する。
トップダウン付替:プロセス指示
この画面では、収益性分析の特性ごとに「配賦、Copy、集計」いずれかの指定を行う。
詳しくは上述の『パラメータ:配賦、Copy、集計』を参照。
指定が完了したら、次に画面上部の【選択基準】ボタンを押下する。
トップダウン付替:選択基準
対象としたい収益性分析レコードの選択基準となる特性値を指定する。
例えば「特定の事業領域内や販売地域内でのみ配賦する」などの場合に、ここで特性値の制限を行っておく。
指定が完了したら、次に画面上部の【値項目】ボタンを押下する。
トップダウン付替:値項目
収益性セグメントの値項目が一覧となっており、それぞれチェックボックス形式で選択が可能となっている。
ここでは配賦を行う対象の値項目を選択する。
上述の『トップダウン付替の例示』で挙げたシナリオであれば「運送費」の値項目を選択する。
トップダウン付替の画面バリアント保存
ここまでで指定した値は、画面バリアントとして保存しておく。
こうすることで、月次ジョブなどを組むことで、決算時に一定基準に従った配賦を自動実行することができる。
トップダウン付替の実行
Tr:KE28より、実行ボタンの押下もしくはバックグラウンド処理により実行する。
トップダウン付替の取消(Tr:KE29)
トップダウン付替は通常、膨大なデータ量を配賦することとなる。
決算上、何らかの経理オペレーション上のミス(費用計上の金額を誤ったり、過大な原価差額を出してしまったり等)があり、それに気付かないままCO-PAの配賦をしてしまうと、配賦結果に異常な金額が出る場合がある。
こうした場合はトップダウン付替を取消して、誤計上分を修正し、再度処理を流す必要がある。
トップダウン付替の取消はTr:KE29から実行する。
Tr:KE29では、過去に実行した配賦のユーザや開始時間を指定し、配賦履歴を一覧表示する。
各配賦実績にはチェックボックスがついている。
チェックボックスを選択し、上部メニューの【編集 >取消】をクリックことで削除が完了する。
ちなみに、上記は実績の取消の場合であるが、計画のトップダウン付替取消の場合はTr:KE1C(削除計画)から実行する。