この記事では、SAPにおける標準原価の役割と、標準原価を登録、更新するための手順について解説する。
はじめに:標準原価とは
ある製品を生産したり調達するのにかかる標準的なコストの事を標準原価という。
材料や人件費、経費といったコストを積み上げることで、標準的にかかるであろう原価が算出される。
原料の調達価格の変動や、製造プロセスの変更などによって定期的に見直される。
実務的には半期や年次で見直している会社も多いようだ。
SAPにおいても、原価構成(BOMや作業手順、MM購買情報、あるいは原価要素ごとの手動登録など)を登録することにより、品目原価が見積もられ、マーク&リリースを行うことで原価が有効化される。
標準原価は品目マスタ(Tr:MM03)の会計ビュー1にて、品目の標準原価を確認できる。
・標準原価が変動した場合は、評価差損益を計上する。
・品目を入庫した場合、入庫は標準原価額を基準に処理される。
・MMでの購入価格と標準原価の差異については、自動仕訳設定により価格差異勘定が転記される。
一方、入庫のたびに原価額が都度変動する「移動平均原価」というものもある。
会計ビュー1の「原価管理区分(MBEW-VPRSV)」をSに設定しておくと標準原価となる。
Vに設定しておけば移動平均原価が更新される。
いずれかの原価を有効にしておかないと、SAP上での在庫移動(非評価でない在庫移動)を行うことができない。
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標準原価設定手順
個々の品目の標準原価を設定する方法として、主に以下の機能がある。
・品目原価見積(数量構成なし) Tr:KKPAN
・品目原価見積(数量構成あり) Tr:CK11N
製造原価を構成する要素であることから、SAPではBOMおよび作業手順(+それらの組合せを登録する製造バージョンマスタ)を「数量構成」と呼ぶ。
「品目原価見積(数量構成なし)」の場合は、予め決められた原価要素ごとの原価を設定し、その総額を品目の標準原価とする。
「品目原価見積(数量構成あり)」の場合は、作業手順、BOM、間接比率などのマスタから、原価計算バリアントに従って原価を積上げ、その積上げ結果を品目の標準原価とする。
更に、複数品目を対象とした標準原価積上を行う方法として、以下の機能がある。
・原価積上実行編集 Tr:CK40N
Tr:CK40Nは主に数量構成を用いて原価積上を行う点では「品目原価見積(数量構成あり)Tr:CK11N」と全く同様だ。
ただし、Tr:CK40Nは複数品目に渡り一括で積上を行うものであり、BOMの下層(原材料レベル)から中間製品、製品と言った形でボトムアップで積上げていくことができる。
各機能を使った原価更新のオペレーションについて、以下に概要を解説する。
品目原価見積(数量構成なし)の場合
品目原価見積(数量構成なし)(Tr:KKPAN)
Tr:KKPANを実行し、品目及び原価計算バリアント、原価計算開始日を指定する。
「個別計画登録:一覧画面」に遷移する。
ここでは予めカスタマイズされた原価構成レイアウトが表示される。
原価構成レイアウトはTr:OKTZで設定し、原価計算バリアント(Tr:OKKN)に紐づける。
原価構成レイアウトでは、例えば「直接材料費」「間接材料費」「直接労務費」「間接労務費」といった形で原価要素を登録しておく。
Trn:KKPANではこのような原価要素に対して、プラント・品目ごとに、各原価要素のそれぞれの価格を入力する。
Trn:KKPBN 品目原価見積(数量構成なし)変更
Trn:KKPCN 品目原価見積(数量構成なし)照会
標準原価のマーク&リリース(Tr:CK24)
・マーク
マーク対象の会社コード・品目・プラントを指定し、標準原価をマークする。
マークというのは、次段階である標準原価のリリース(反映)の準備処理のようなもの。
・リリース
Tr:CK24画面上の「リリース」を押下すると、リリースモードに切り替わる。
会社コード・品目・プラントを指定するのはマークと同様。
リリースを行うと、該当品目の標準原価が有効となる。
品目原価見積(数量構成あり)の場合
品目原価見積(数量構成あり)(Tr:CK11N)
Tr:CK11Nを実行し、第一画面にて品目・プラントを指定する。
「原価計算データ」タブにて、原価計算バリアントを指定する。
「日付」タブにて原価計算開始・終了日、数量構成日付、評価日を入力する。
数量構成日付: 有効なBOMを参照する際の基準日
評価日: 有効なレートを参照する際の基準日
入力が完了したら、Enterボタンを押すと原価積み上げを開始する。
積上結果が次画面にて表示される。BOMから読み込まれた明細、作業手順(活動タイプ)から読み込まれた明細、間接比率から付加された明細などが、明細カテゴリや原価要素とともに一覧表示されており、積上内容の内訳を確認することができる。
積上げた内容に問題がなければ保存する。
この時点ではまだ積上計算を行ったのみであり、マーク&リリースを行わなければ標準原価は反映されない。
標準原価のマーク&リリース(Tr:CK24)
マーク&リリースの操作については、数量構成なし(Tr:KKPAN)の場合と同様。
Tr:CK24より、マーク対象を指定し、リリース処理を行うことで品目標準原価を更新する。
原価積上実行編集の場合
原価積上実行編集(Tr:CK40N)は複数品目に渡り一括で積上を行うものであり、BOMの下層(原材料レベル)から中間製品、製品と言った形でボトムアップで積上げていくことができる。
マーク&リリースまでこの画面内で完結する。
原価積上実行編集(Tr:CK40N)
原価積上実行編集画面は、「一般データ」「処理」「積上げ結果」の三つのセクションから構成されている。
一般データ
一般データのボックスでは以下の2項目をまず指定する。
・原価積上実行ID/テキスト
・原価積上実行日付
原価積上実行IDは任意コードを付与する。(実行する積上処理に対して、名称を付与するイメージ)
原価積上実行日付は過去日を入力するとエラーになる場合があるので注意が必要。
続いて原価計算データビューにて原価計算バリアント、管理領域、会社コード等を指定する。
日付ビューが出現するので、原価計算開始日/終了日や数量構成日付を入力する。(これらの入力内容はTr:CK11Nとほぼ同様)
ここまで入力し、保存すると、次に「処理」のセクションが表示される。
処理
このボックスの中には「選択」「原価計算」「分析」「マーク」「リリース」の5つのフローステップが表示されている。
選択
まず「選択」にて、積上対象のプラント・品目を選択し、保存する。(表中の「Parameter」をクリックで選択画面に遷移する)
選択バリアントが保存されたら、実行ボタンが現れるので、実行する。
ステータス・品目数・エラー件数の欄が更新されたことを確認する。
原価計算
「原価計算」にて同様にParameter欄をクリックする。
次画面にて実行条件を指定する。項目数は少ないので、そのまま保存する。
実行欄に実行ボタンが現れるので、押下する。
「ログ」欄にアイコンが現れるので、積上内容を確認する。
マスタ整備がされていない状態では、価格を該当品目/プラントで設定できなかった旨のエラーが多数出てくるはずなので、原因を個別に潰していくこととなる。
分析
「分析」にて同様にParameter欄をクリックする。
次画面にて実行条件を指定する。項目数は少ないので、そのまま保存する。
「実行」ボタンを押すことで積上結果を表示する。
マーク&リリースを行わなければ、積上結果がシステムに反映されるわけではないので、ここまでの「選択」~「分析」の工程を何度か繰り返して、エラーをつぶしたり意図した原価になっているかどうかを確認する。
マーク&リリース
「マーク」「リリース」の部分でも同様に、Parameterと実行をクリックすることでステップを先に進める。
リリースのステップを完了することで、標準原価が品目に反映される。
積上結果
原価積上の結果ログ(原価計算レベル、品目概要、分析)を確認する。
原価積上実行の削除を行う場合(Tr:CK44)
原価積上実行のIDを登録したが、該当IDを削除したいという場合はTr:CK44から該当IDを指定して削除する。
標準原価に関連するトランザクション・テーブル
原価見積再編成(Tr:CKR1)
マークやリリースの取消を行う場合は、このトランザクションから実行する。
取消対象を以下ラジオボタンで選択する。
・将来原価見積:マーク済・リリース前の対象を取消
・現在原価見積:リリース済の対象を取消
取消後、数量構成なしの場合はTr:KKPBNから原価構成・価格を変更する。数量構成ありの場合はTr:CK11Nから再積上を行う。
その後、再度リリースを行うことで原価は再反映される。
ただし、品目元帳が有効である場合、一度リリースすると取消は出来ないので注意。
価格変更(Tr:MR21)
原価構成の積み上げによらない標準原価変更は、Tr:MR21からも実行できる。
Tr:MR21で標準原価を変更した場合、(既に在庫が存在している場合は在庫金額の変動が起きるので)価格変更伝票が作成され、FI上でも評価差損益が計上される。
標準原価の変更履歴
品目マスタ照会(Tr:MM03)にて、会計ビュー1を表示し、メニューから「変更履歴照会」を選ぶことで確認可能。
・複数品目の変更履歴を一括で取得したい場合
標準原価登録・変更があった場合、テーブルMBEW(品目評価)に最新標準原価が反映される。
それまで有効な標準原価が存在していた場合は、旧原価は変更実施月の前月の値とセットで履歴テーブルであるテーブルMBEWH(品目評価:履歴)に格納される。
このテーブルを使うことにより、「過去のある時点での標準原価」をテーブルから取得することも可能。
その他関連トランザクション
Tr:CK33 明細化の比較
標準原価に関連するテーブル
MBEW 品目評価
MBEWH 品目評価:履歴
KEKO 原価積上 – ヘッダデータ
KEPH 原価積上:製造原価の原価構成
CKHS ヘッダ – 個別計画
CKIS 個別計画:明細/原価積上:明細化
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