SAP CO基礎の解説 -はじめに-
SAP ERPのCOモジュール(管理会計)にかかわる基本的な知識を解説します。
・SAPに関する基礎知識がなく、日本語での情報も少ないためとっかかりに困っている方。
・SIerの新入社員でSAP案件にアサインされた
・SAPシステムのユーザヘルプデスク業務に参画した
・担当モジュールと別モジュールの知識が欲しい
SAP全体の概要についてはこちらを参照
SAP ERPはERPパッケージソフトです。ERPとは経営資源計画(Enterprise Resource Planning)のことで、販売・生産・購買・会計・人事といった企業活動を支援管理するためのソフトがSAPです。
SAPを勉強するのであれば、システムの理解も大事ですが、同時にビジネスや経営、会計に関する理解をすることも非常に大事です。それらを両立することで、SAPコンサルタントとして、SAP導入の際に上流工程を担当できます。
この記事を読むことにより、少なくとも「SAP COについて全然わからない、五里霧中の状態」からは脱することが出来ます。主観ですが、3か月分程度の業務経験を通して学ぶ手間は飛ばせると思います。
・SAP R/3
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・S/4 HANA
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SAP CO(管理会計)モジュールとは
管理会計とは何か
企業内部において、どの部署がどれだけの成果を上げているのか、どの製品群の収益性が高いのか、事業領域やマーケット別にどれだけの収益が上がっているのか、ある製品を作るのにどれだけの費用がかかっているか、といった様々な軸での評価を定量的(金額)に表現するのは非常に重要だ。
そうした観測は、事業全体の計画を立てたり今後投資すべき領域が何かを決定したり、より損益把握が適切になるような組織再編を行ったりするための指針となる。
こうした内部活動を適切に計算し可視化するのが管理会計の目的だ。
内部会計としての側面から、企業ごとに様々な原価の捉え方や、業種によっては非常に複雑な計算を要するものがある。
つまり、管理会計は会社や業態ごとに特色があるケースが多い。
一方、会社間で共有されるべき基準も存在する。1962年に大蔵省が制定した「原価計算基準」という統一的な基準もあり、これは60年もの間、大多数の企業により尊重されてきた精度の高い原価把握の基準でもある。
(こうした原価計算基準は、財務会計(制度会計)の損益計算書上も製造原価の正確性が担保されていなければならない事から、財務報告を行うすべての企業に共有されている必要がある)
管理会計(CO)モジュールの役割
管理会計自体が複雑なので各論点を深掘りしていくと非常に議論が長くなってしまうが、まず手始めには以下のような会計的処理を、数々のマスタ設定やトランザクション等を駆使して実行するのが管理会計だという風にイメージを持つ。
・製品原価計算(製品を製造する上でかかる標準的な費用を、適切な基準に基づいて計算し、実績との差分を求める)
・事業や組織間での一定基準による配賦(共通的な費用を割り振って、それぞれが受持つ金額を決める)
・事業や組織単位での損益の把握
財務会計(FI)モジュールとの関わり
財務会計(FI)の目的が外部向け(株主や債権者など)の財務状況の報告・開示にある一方、管理会計(CO)の目的は内部活動にかかる金額の適切な把握と可視化にあると言える。
日商簿記でいうと「商業簿記」と「工業簿記」の分野に分かれているが、主に原価計算を扱う「工業簿記」の範囲はCOにあたる。主に会社法に基づく制度会計(外部の利害関係者向けの財務報告)を扱う「商業簿記」の範囲はFIにあたる。
SAPのCOモジュールコンサルをしたい場合、基本的に簿記二級の工業簿記相当の知識が既にあることが前提となるので、COコンサル志望で未習であるという場合は先にそちらを学習する方が良い。
また、FIとCOは互いに独立したものではなく、密接にかかわっている。
SAPでは各モジュールが統合されたDBのもとで相互に連携する設計になっており、FIで計上された費用はシームレスにCO機能上でも参照される。
SAP CO機能概要
管理会計基本設定
COにおける組織設定、カスタマイズ、会計期間、マスタ設定などの基本的な要素を以下にまとめる。
管理会計の組織設定
管理領域(Tr:OKKP)
管理会計における組織単位で、原価センタや利益センタは管理領域の下に定義する。
管理領域は会社コードに対して割当を行うが、複数の会社コードにまたがる一つの管理領域を割り当てることもできる。
原価センタとは
原価(費用)を管理するための組織単位。
原価が発生する組織または事業単位を表すものとして設定する。
原価センタは部署単位で設定することが多く、総務部、経理部、営業部(およびそれらの配下にある課単位)で一つの原価センタコードをもつというケースが殆どだと思われる。(部門を跨る費用は「本社共通用」などの原価センタを別途設定したりする)
Tr:KS02 原価センタ変更
Tr:KS03 原価センタ照会
利益センタとは
損益を分析するための組織単位。
利益センタ上に売上と売上原価及び各種費用、配賦された金額等を集計し、損益計算を行う。
組織の単位であったり、事業の単位を表すものとして設定するが、基本的には損益計算が主な用途なため「売上が発生する事業/組織」をあらわすものとして利益センタとして設定するのが主なケースだ。
これにより、該当の利益センタ(組織や事業)におけるパフォーマンスを測定する。
Tr:KE52 利益センタ変更
Tr:KE53 利益センタ照会
※補足:SAP組織は主に以下の記事で解説している。
COにおける会計期間(Tr:OKP1)
SAP上では会計転記可能な期を「会計期間」のオープン/クローズ状態で管理している。
経理業務として毎月の締め処理を行い、月々の財務状況の確定を行うが、一度会計締めを行った月の会計状況を変動させてしまったら会計締めの意味がなくなるため、基本的には月ごと(期ごと)に会計期間をクローズする。
FI会計期間を閉じることにより、該当月に財務会計上の転記を行うことができなくなる。(Tr:OB52)
COにも同様に会計期間が存在し、Tr:OKP1よりオープン/ロックの管理を行う。
※補足:会計期間に関しては以下記事で詳しく解説している。
原価要素マスタ
原価要素とは、COモジュール上での仕訳を起こす際に必要な勘定のマスタのことで、一次原価要素と二次原価要素がある。
一次原価要素とは通常の期中取引全般で転記される費用・収益のことであり、FIにおける費用・収益勘定(G/L勘定マスタ)とコードを共有している。
二次原価要素はCO内の処理(配布や決済など)で使用する。
※補足:原価要素については以下の記事で詳しく解説している。
コストオブジェクトについて
管理会計上のコストの集計単位として、以下のようなオブジェクトがあり、それぞれ異なる目的で使用する。
収益性セグメント
内部指図
ネットワーク指図
WBS
こうしたコストオブジェクトはCOモジュール内で完結するものではなく、ロジスティクスの各モジュールにて幅広く使用される。
一例として、MMでは購買発注を登録する際に伝票上にコストオブジェクトを登録することがある。(費用購買のケース)
通常、購買発注を登録し、物品が納入されたことで入庫処理を行った場合、該当の物品を在庫に計上する。つまり、FI上でも棚卸資産勘定を仕訳する。
一方、オフィス用品など細かく在庫管理をしない物品や、サービスなど在庫として実在するものではないものを購入した場合、在庫勘定ではなく費用勘定を仕訳する。
発注伝票の機能としては、原価センタを費用の計上先とする場合は、購買発注明細の項目「勘定設定」でK(原価センタ)を選び、勘定設定タブ中で原価センタコードを指定する。
管理会計のプロセス
製品原価管理
製品を製造する際にどの程度の費用が掛かっているかを正確に把握することは、企業の利益構造の改善や製造プロセスの改善に不可欠と言って良い。
製品原価は直接材料費、直接労務費、製造間接費で構成される。
SAPの生産管理機能にはBOMおよび作業手順という、その製品を製造するために必要な原材料や作業を定義するマスタがある。
BOMに登録された原材料のそれぞれの価格(材料費)や、作業における単位時間当たりの価格(労務費)を集計することで、その製品を製造するのに標準的に必要となる費用を求めることができる。
こうした集計処理を「原価積上」とよび、求められた標準的な費用を「標準原価」と呼ぶ。
SAP用語では生産系マスタを使って標準原価を求める処理を「品目原価積上(数量構成あり)」と呼んでいる。
これに対し、生産系マスタを使用せず、原価を構成する要素(原価要素)毎に個別に金額指定して標準原価を設定する処理を「品目原価積上(数量構成なし)」と呼ぶ。
標準原価は、在庫評価を行う際にも必要となる。在庫の残高(どの製品が、どれだけ倉庫に残っているか)を金額的に把握することは、貸借対照表(棚卸資産に該当)を作成するのに欠かせないし、製品を売って払い出す際には、その製品の評価額が売上原価となる。
また、標準原価にたいして実際にかかった費用を計算する実際原価計算(Tr:CKMLCP 実際原価積上実行編集)も行い、どこにどのような差異が出ているのかの把握を随時行う必要がある。
※補足:SAPの標準原価計算については以下記事で詳しく解説している。
・標準原価と移動平均原価
品目マスタの原価管理区分(原価計算ビュー)を見ると、S(標準原価)とV(移動平均原価)という二つの区分がある。
標準原価に関しては上記で解説した通りだが、頻繁に評価額(購入額)が変動するような品目に関してはV(移動平均原価)を採用し、入庫の都度、移動平均にて原価を更新する方法を取る場合もある。
一般的には製造業の製品品目の場合にS(標準原価)を使い、相場の変動がある商社取引などの場合にV(移動平均原価)を使う。
原価センタ配賦
費用には部門に直課できるものと、部門を超えて共通的に発生するものがある。
例えば本社ビルを借り上げて使用している場合、継続的に賃料が発生するが、本社ビルは複数の部門が使用している。こうした費用は部門共通費という。
こうした共通的に発生する費用については、予め決めたルールに従い各部門に配賦することで、部門ごとの正確な損益把握が可能となる。
予め決めたルール(比率)とは、例えば部門の人数比であったり、占有している面積比などが該当する。
・COにおける配賦処理
原価センタ間の配賦を行う際には、「周期マスタ」を登録することで、配賦する対象の原価センタ(センダ原価センタ/レシーバ原価センタ)、配賦の比率、配賦の際に使用する原価要素などを定義する。
部門間の配賦比率は、予め統計キー数値(Tr:KK01)を登録しておくことによって、どの原価センタに対しどういった基準で配賦するかを指定することができる。
・Tr:KSU1 配賦周期登録(計画)
・Tr:KSU5 配賦実行(計画)
※補足:SAPにおける計画配賦/実績配賦の仕組みについては以下記事で解説している。
内部指図(Internal Order)
内部指図はCOにおけるコストオブジェクトの一つ。費用の計上および決済を行う。
使用用途が広く、一つの内部指図をある案件にかかった費用の集計オブジェクトとして使用したり、生産ロットに見立てて個別原価計算に使用したりなど、内部指図を何に見立てるかによってさまざまな使途を実現することができる。
・Tr:KO01 内部指図登録
内部指図に計上した費用は、決済処理(Tr:KO88)を行うことで決済プロファイルの設定に従い決済される。
一例として、決済プロファイルに決済先として原価要素(G/L勘定)「売上原価」を指定しておくことで、内部指図に計上された費用を売上原価に振り替える。
※補足:内部指図については詳しくは以下記事で解説している。
収益性分析(CO-PA)
収益性分析(Cost and Profitability Analysis)では、取引情報をさまざまな特性(事業領域、国、リージョン、製品群)の情報とともに保存し、多元的な分析を可能にする。
費用あるいは収益が伴う会計仕訳が発生するごとに、その取引情報を収益性セグメントという形で該当の会計伝票明細に紐づけて保存する。
収益性セグメント中には、複数の特性項目を保持しており、たとえばある売り上げがどの事業領域、どの会社、どの国や地域、どの得意先、どの製品群によるものであったか、といった情報が登録されている。
こうした情報を集計してレポート化することで、どのような地域でどのような製品が利益率が高いか、といった情報を可視化することができる。
収益性セグメントにどのような特性や数値項目を持たせるかは、収益性を見る切り口がどのようであるべきかを要件定義を通じ決定し、それに応じた特性項目を設定する必要がある。
収益性分析については詳しくは以下記事で解説している。
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