【SAP CO】品目標準原価計算(原価積上)の仕組みを解説

SAP CO

SAPでは、製造に必要な原材料を登録するBOMマスタ、および製造に必要な作業内容を登録する作業手順マスタ等を用いて、品目の原価を積み上げることで標準原価を計算する、品目標準原価計算(原価積上)の機能が備わっている。

本記事ではSAPにおける品目の原価積上の仕組み、前提カスタマイズや必要なマスタを解説する。

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はじめに:標準原価計算とは

前提:製造原価の構成

まず製造原価についての前提を整理する。
製造原価の構成要素は、材料費・労務費・経費であらわされる。

さらに、製造原価の構成要素は直接費と間接費に分解され、製造原価=直接材料費・直接労務費・製造間接費(+直接経費:外注加工費など)とも表現される。

標準原価計算の目的

上述したような製造原価について、ある製品を製造するのに必要となる標準的に材料費や労務費を定め、それを合算すればその製品の合理的な標準原価を求めることができる。
標準原価を定めて管理することにより、適切な売価設定、効率的な生産管理およびコスト削減につなげることができる。

SAPにおける品目標準原価計算の解説

SAPの標準原価計算機能では、BOMや作業手順といった生産系のマスタに登録された情報を用いて、品目を製造するのに必要な直接材料費や直接労務費などを収集し積上げることで、標準原価を算出することが可能だ。

参考:標準原価の設定方法・オペレーションに関する解説は以下記事で行っている。

【SAP CO基礎】品目標準原価の解説と設定方法
ある製品を生産あるいは調達するのにかかる標準的なコストの事を標準原価という。 材料や人件費のコストを積み上げることで、標準的にかかるであろう原価が算出される。 SAPにおいても、原価構成を登録することにより(BOMや作業手順、あるいは原価要素ごとの手動登録)、品目原価が見積もられ、マーク&リリースを行うことで原価が有効化される。

例えば下図は原価積上を行う処理である「Tr:CK11N 品目原価見積(数量構成あり)」を実行した際の結果画面イメージであり、積上げた金額要素が明細にて一覧化される。(可読性を優先し、実機上の表示とは異なる記載としている)

この積上げ結果は、大きく分けて3つの部分から構成されている。
①直接材料費の部分 (明細1~4)
②直接労務費/製造間接費の部分 (明細5~7)
③追加で付加している間接費の部分 (明細8~10)

BOMから直接材料費を、作業手順から直接労務費/製造間接費を、間接費率の設定から間接費を読み込んでいる。
それぞれの明細がどこを参照したものかは、項目「明細カテゴリ」からも判別できる。
例:明細カテゴリM:品目(BOM)、E:作業手順、G:間接費(原価計算表)

それぞれの部分ごとに、どのようなカスタマイズやマスタが関連しているのかを以下に解説する。

※上記例では、直接経費(外注加工費)は無いもの(0円)としている。

標準原価計算機能の概要図

基本となるカスタマイズと、複数のマスタ設定を参照することで積上計算を行う。
上図は、関連するカスタマイズとマスタの概要図となっている。

共通設定

Tr:OKKN 定義:原価計算バリアント

原価計算バリアントとは、品目標準原価計算を行うにあたって、計算方法や評価方法を定義するための設定のことだ。
原価計算バリアントでは、以下のような設定を行う。

原価計算タイプ
原価計算の方式と、価格の更新対象(品目マスタ上の標準原価を更新するかどうか)等を決定する。

評価バリアント
・品目評価
構成品を評価する際に採用する金額の優先順位を決定する。
次期標準原価、標準原価、購買発注からの正味価格といった価格項目のどこからどういった優先度で金額を取得するのか(金額設定が無かった場合、次点の優先度の項目を探しに行く)を定義する。
・活動タイプ/プロセス
作業にかかる価格を(上記の構成品と同様に)どの活動価格を採用するかを決定する。

日付管理
原価積上を行う際の日付項目(原価計算開始/終了日、数量構成日付、評価日)をマニュアル入力対象とするか、および初期値の日付を定義する。

数量構成決定
標準原価計算の根拠となるBOMや作業手順を、どういった優先度で選択してくるかを定義する。
(対象のBOM用途やタスクリストタイプなど)
選択の際のパラメータはTr:OPJM(BOM選択)やTr:OPJF(作業手順選択)から設定できる。

Tr:OKTZ 原価構成レイアウト

原価構成レイアウト(Tr:OKTZ)を設定し、原価を構成する要素をグループ化(直接材料費、直接労務費、製造間接費といった分類で)して積上結果を表示する。
設定例として、原価構成を以下のように定義し、それぞれに原価要素を割り当てる。
・001 直接材料費
・002 直接労務費
・004 製造間接費
・005 その他間接費

直接材料費の計算

直接材料費は、製造するために必要となる構成品表(BOM)に基づき決定する。
BOMを構成する構成品一つ一つの標準原価を積み上げることで、最終製品の標準原価が計算される。

必要マスタ
Tr:CS01 BOMマスタ
Tr:MM01 品目マスタ
Tr:ME11 購買情報

Tr:CS01 BOMマスタ

BOMマスタにおいては、品目・プラントごとに、ある製品を生産するのに必要な構成品およびその数量を登録する。
BOMを構成する構成品一つ一つの標準原価を積み上げることで、最終製品の標準原価が計算される。
中間品がある場合は、さらに数段階に渡って下層にBOMが存在する場合がある。BOMの最も下の階層から標準原価を合算し上層に向かって積上げていく。

Tr:MM01 品目マスタ

BOMを登録するためには、前提として品目マスタが登録されていなければならない。
品目マスタ上には、登録時に指定した標準原価や、次期予定原価などを持つ。標準原価をどこから採用するのか(品目マスタを参照する、あるいは原価積上計算の結果を参照する、等)は原価計算バリアントの設定により決まる。

Tr:ME11 購買情報

外部から購入する原材料(=それより下層にBOMを持たない品目)の場合は、品目マスタの登録時に設定した標準原価、あるいは購買情報で登録した仕入先からの購入単価を採用する。

直接労務費・製造間接費の計算

直接労務費は作業手順に登録された作業(およびその作業単価・作業時間)に基づいて計算する。
製造間接費は、作業手順にて設定した作業時間や稼働時間に基づき操業度見合いなどで計算する。(計算式等を用いて、製造様態によって様々な基準を適用)

必要マスタ
Tr:KS01 原価センタ
Tr:KL01 活動タイプ
Tr:KP26 活動タイプ/価格計画
Tr:CR01 作業区
Tr:CA01 作業手順

Tr:KS01 原価センタ

原価センタマスタは、作業区との対応関係を定義し、活動タイプごとの計画標準賃率を設定するためのベースとなる、原価管理のための組織設定となっている。

Tr:KL01 活動タイプ

活動タイプマスタでは、原価の発生する作業要素を定義し、数量単位と原価要素を割り当てる。
例えば人的作業や機械稼働などが「活動」にあたり、その活動を量的に表す(作業であれば何分、何時間など)ために数量単位を設定し、その活動がどのような原価要素(労務費など)に対応するのかを設定する。

ある製造場所における活動として、人的作業(段取りや片付け、運搬も含む)と製造機械の稼働(電機や燃料を消費する)、場合によっては外注に出すパターンが考えられる場合、以下のような活動を定義する。

ZAC01 人員作業時間(直接労務費)
ZAC02 機械稼働時間(製造間接費)
ZAC03 外注加工(外注加工費)

活動タイプマスタでは、活動のテキスト、数量単位、原価センタカテゴリ(活動単価設定が可能な原価センタの種類)といった項目を定義する。
さらに、価格をマニュアル更新するかどうか、および配分原価要素の設定を行う。

※参考 活動タイプテーブル
Table:CSLA

Tr:KP26 活動タイプ/価格計画

原価センタおよび活動タイプごとに、計画活動単価(標準賃率)の設定を行っていく。

多数の原価センタと活動タイプの組合せが発生する場合もあるため、CSVアップロードにも対応している。
メニューから【補足>Excel計画>アップロード】を選択することで一括更新が可能。

活動単価はマニュアル設定を行う場合と、配賦計算により設定を行う場合がある。

・計画プロファイルの選択について
【設定>計画プロファイル設定】から計画プロファイルを選択する。
レイアウト等の情報が保持されているので、最初に適切なものを設定する

Tr:CR01 作業区

製造場所を表すマスタとして、作業区を定義する。
作業区では、標準値(ある作業区における活動の種類と、その標準的な作業量を表す)項目に対して原価センタの設定および活動タイプの割当を行う。

作業区は作業手順マスタへ割り当てる。
作業区に関しては以下記事で個別に解説している。

【SAP PP知識】作業区マスタについて解説
作業区マスタは、製造場所(個々の作業所や製造機械など)を表すPPモジュールのマスタで、作業手順マスタに設定し、作業時間の計算や労務費や製造間接費の計算に関わるものだ。 この記事では作業区マスタがどういうものか、およびCOモジュールの活動タイプやPPモジュールの作業手順マスタといったオブジェクトの関連性について解説する。

Tr:CA01 作業手順

ある製品を製造するのに必要な作業内容をあらわすマスタとして、作業手順を定義する。
作業明細に対して、作業区を割り当てる。
作業明細は「標準値」項目を持ち、活動の種類とその標準的な作業量を設定する。

こうすることで、原価センタ/活動タイプにおける活動単価(標準賃率)と、作業手順マスタにおける標準値(標準的な作業量)がリンクし、標準原価のうちの直接労務費や製造間接費が求められる。

Tr:C223 製造バージョン

数量構成(BOM+作業手順)の組合せを決定する製造バージョンの登録が必要。

BOMや作業手順は複数バリエーションを登録することができるため、それらの組合せを決定するのが製造バージョンとなっており、積上計算に必要なマスタとなっている。

間接費の計算

品目標準原価に対し、間接費として何の費用をどう配賦すべきなのかは管理会計上の様々な考え方がある。
今回の例では仕損費を直接材料費から切り出して、別の原価要素を割り当てている。

仕損費についての会計処理は割と複雑なのだが、仕損(正常仕損)によって生じうる費用を標準原価に乗せる場合は以下の2通りが考えられる。
①BOMの構成品数量を、正味量ではなく仕損も加味した総標準量として登録する
②直接材料費からは分離した形で仕損費を標準原価の原価要素として組み込む

SAP上において①を採用しようとする場合、生産用BOM(生産のために正味量を登録する必要あり)と原価計算BOM(仕損も加味した総標準量)とで数量に差異が出るので、管理は煩雑になる。また、勘定コード(原価要素)もBOMに登録された品目の評価クラスによって決定される。
よって、間接比率を用いて②の形で標準原価に対して加算(正常仕損率ベースで加算)することで、原価計算上の都合によるBOMの数量登録への影響を与えず、勘定コード(原価要素)も「直接材料費_仕損/補修」といった形で「直接材料費」から分離することができる。

ここでいう間接費は英語だと”Overhead Cost”と訳される。

必要カスタマイズ
Tr:KZA1 間接費(※この画面から各関連カスタマイズに飛べる)
Tr:KZB2 定義:計算基準
Tr:KZZ2 定義:間接費率
Tr:KZE2 定義:貸方
Tr:KZS2 定義:原価計算表

Tr:KZA1 間接費

間接費設定に必要な各カスタマイズは、この画面から遷移することができるようになっている。

間接費は「原価計算表」を組むことで、どのような金額基準を用いて、どの程度の率で間接費を付加し、どの原価要素を割り当てるのかを決定する。
「原価計算表」は、「計算基準」「間接費率」「貸方」という要素によって構成される。

Tr:KZB2 定義:計算基準

計算基準では、間接費を計算するための根拠となる金額がどのように決定されるかを定義する。

例えば間接費のうち、仕損費の付与を「直接材料費の総額に対し10%」として定義したとする。
この場合は「直接材料費の総額」という部分が計算基準にあたる。

計算基準のIDを指定し、「詳細」画面にて金額の集計対象とすべき直接材料費にあたる原価要素コードを割り当てる。(個別あるいはFromToの範囲指定ができる)

設定例:
・YX01 正常仕損/基準

Tr:KZZ2 定義:間接費率

間接費の種類ごとにIDを振り、検索順序を設定する。
検索順序は、どのようなキーによって間接費を振っていくかを決定するパラメータ。

間接費のIDを指定し、「詳細」画面にて間接費率(計算基準の金額をベースとして、何パーセントの費用を振るか)を指定する。
検索順序の設定により、より細かいキーを指定することができる。
一例として間接費キーの設定を細かく分け、間接費キーの種類によって間接費率を変えることも可能。

品目マスタの原価計算ビューには「間接費グループ」という項目があるが、Tr:OKZ2にて間接費キーと間接費グループの紐づけを行うことができる。

設定例:
・YY01 正常仕損/間接費率

Tr:KZE2 定義:貸方

間接費の原価要素を指定する。原価要素カテゴリ”41″(間接費率)の原価要素のみを設定できる。
また、決済先(貸方転記)の原価センタや内部指図を指定しておく。

設定例:
・YZ1 正常仕損/貸方

Tr:KZS2 定義:原価計算表

原価計算表を定義し、「計算基準」「間接費率」「貸方」の各要素を原価計算表に割り当てていく。

まず「原価計算表行」をダブルクリックすると上図のような表形式の設定画面が表示されるので、原価計算表の1行目に基準を割り当てる。
※基準のパラメータ中には直接材料費にあたる原価要素を設定しているものとする。

次に、原価計算表の2行目に間接費率を割り当て、From/Toに001行目を指定する。
こうすることで、001行目の基準に登録された原価要素を参照し、標準原価積上を行った結果のうち直接材料費に当たる金額(BOMから積みあがった金額の部分)を集計する。
この金額を基準とし、間接費率で設定した割合を掛けて、標準原価積上に乗せる間接費が算出される
同じく原価計算表の2行目には貸方のパラメータも設定する。

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