【SAP FI】特殊仕訳について解説(前受/前払プロセス)

SAP FI

SAPでは会計仕訳の際に「特殊仕訳コード」を明細に対して設定できる。
特殊仕訳コード(Special G/L Account)とは、得意先/仕入先明細などにおいて、前受金や前払金、手形や保証金などの仕訳を行う際に明細に設定するコードのことだ。
企業間の取引においては、通常は売買の際には売掛金、買掛金を仕分ける。しかし、例えば以下のようなケースでは単純に売掛や買掛を計上するのではなく、前受金・前払金や受取手形・支払手形の仕訳が必要となる。

・得意先に、商品引渡し前に、頭金や前払いでの支払いを求める場合(前受金)
・仕入先から、商品引渡し前に、頭金や前払いで支払うことを求められた場合(前払金)
・得意先から、支払いを手形で行いたいと言われた場合(受取手形)
・仕入先に、手形で支払いたいと言う場合(支払手形)

こうした仕訳が必要となった場合、会計伝票の明細入力をする際に、特殊仕訳コードを入力する。
特殊仕訳コードは以下のようなものがあるが、この記事内では特殊仕訳のプロセスとともに用途を解説する。

・A 前受/前払金
・F 前受/前払金請求
・W 手形
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特殊仕訳について解説

特殊仕訳の目的

特殊仕訳コードを入れることにより、例えば得意先/仕入先明細のうち、通常の債権債務明細と、前受/前払い等の明細を識別することができるようになる。

得意先明細(Tr:FBL5N)や仕入先明細(Tr:FBL1N)では、特殊仕訳明細のみを検索するチェックフラグがあり、標準明細と区別したり絞ったりすることができるようになっている。

SAPにおける特殊仕訳のシナリオ

特殊仕訳を行う事例として、得意先に対して商品を引き渡す前に前受金を受け取る場合を例に解説する。
商品引渡しに関して何らかのリスクがある場合や、取引実績の少ない得意先である場合、その他先渡しで現金が欲しい場合などに、得意先に対して商品提供より前に支払いを行うことを求める。
今回は、総額100,000の取引のうち、30,000を前受として、70,000を商品と引換えに受けとるというケースを想定する。

前受金請求

このプロセスでは、SAPにおいてはまず「前受金請求」を行う。

・得意先前受金請求(Tr:F-37)
伝票タイプ、伝票日付、転記日付、会社コード、通貨、勘定コード(ここでは得意先コード)といったパラメータを入力する。
該当の得意先に、前受金として請求する金額をここに転記する。
先述の通り、総額100,000の取引のうち、30,000を前受とするので、このトランザクションでは「30,000」を金額として入力する。
さらに、特殊仕訳コードは以下が設定される。

特殊仕訳コード:F(前受/前払金請求)
目標特殊仕訳:A (前受/前払金)

この画面は、会計伝票の入力画面と類似した見た目で、会計伝票番号も発番される。
しかし、前受金請求を入力しても実際に会計仕訳が起きるわけではなく、この伝票は1明細のみの入力で保存できる。つまり、貸借バランスしている必要がなく、相手勘定も存在しない。
(複数明細保存することができるが、全て借方明細となる。)

ここで入力された情報は「備忘明細(Noted Item)」として扱われる。備忘明細は会計仕訳明細とは異なり、単独行で登録することができる。

会計伝票照会(Tr:FB03)や会計伝票明細テーブル(BSEG)で照会した際は、伝票内に明細が1行しか存在しないため、初見だとギョッとする人もいる。会計仕訳では必ず貸借がバランスしないといけないので、通常の会計伝票では少なくとも2明細存在するはずだからだ。
(※ちなみに前受請求はあくまで備忘明細のため、手続き上は飛ばしても問題ない)

前受金転記

得意先への前受金請求を行った後、相手からの入金がある。このときに前受金勘定を計上する。
会計は一般的に発生主義を採用しているので、物の受け渡しやサービスを行為として達成した時点で費用/収益を計上するのだが、この時点では相手への物品・役務の提供を行っていないので、売上を計上できない。これが前受金として仕訳をしなければならない理由だ。

前受金は以下の画面から計上する。

・得意先前受金転記(Tr:F-29)
この画面も、会計伝票の転記画面と類似した画面となっている。前受金転記では、先ほどの備忘明細とは違って実際に会計転記が行われるし、貸借も一致していないといけない。
このときの特殊仕訳コードはA(前受/前払金)を使用し、仕訳は以下のように転記する。

現金 30,000 / 前受金 30,000

相手から前渡しで現金を受け取ったので、現金を借方に計上し、前受金を貸方に計上する。
貸方に計上しているのは、前受金が「物品・役務を将来提供しないといけない」という負債(流動負債)の性質を持つためだ。
(参考として、仕入先に対する前払いを行った場合、前払金は「物品・役務を将来受け取る権利」としての性質をもつため、流動資産として計上される)

請求処理

次に、実際に物品や役務の提供を行った時点で、売上を計上することとなる。
売上の計上は通常の得意先請求のトランザクションから入力を行う。

・得意先請求書入力(Tr:FB70)

債権 100,000 / 売上 100,000

得意先からの入金

次に得意先からの残額の入金が行われる。入金転記は以下のトランザクションから実行する。

・入金転記(Tr:F-28)

前金として30,000は既に受け取っているので、残りの70,000が入金されることとなる。

現金 70,000 / 債権 70,000

前受金消込

入金転記を実行した後は、前受金の30,000が残った状態となっている。
この前受金の消込を行う必要があるので、以下画面から消込を行う。

・得意先前受金消込(Tr:F-39)

前受金 30,000 / 債権 30,000

以上が前受金の場合のプロセスとなるが、前払金の場合も考え方としては同様だ。

前払金プロセスの場合
・仕入先前払金転記(Tr:F-48)
・仕入先請求書(Tr:FB60)
・仕入先前払金消込(Tr:F-54)

特殊仕訳明細の照会

得意先明細一覧(Tr:FBL5N)や仕入先明細一覧(Tr:FBL1N)では、画面下部にチェックボックスがあり、標準明細・備忘明細・特殊仕訳明細を一覧に表示するかどうかを選択できる。
これを利用し、特殊仕訳コードの入った会計伝票明細を照会することが可能。

特殊仕訳のカスタマイズ

定義:得意先前受金用の統制勘定(Tr:OBXR)

このカスタマイズでは、得意先明細(勘定タイプD)における前受金の特殊仕訳の設定を行う。
統制勘定に対する特殊仕訳用の代替勘定(売掛金勘定⇔前受金勘定)を指定したり、特殊仕訳コードごとの詳細設定(転記した際に備忘明細となるか、与信管理に関係するかといったフラグや、使用可能な転記キー等)を指定する。

一例として、前受金の仕訳では、特殊仕訳コードAにて、得意先の統制勘定に対する代替統制勘定(前受金勘定)を指定する。

このカスタマイズのパスは以下の通り

財務会計>債権管理および債務管理>会計トランザクション>得意先前受金>定義:得意先前受金用の統制勘定

定義:仕入先前払金用の統制勘定(Tr:OBYR)

このカスタマイズでは、仕入先明細(勘定タイプK)における前払金の特殊仕訳の設定を行う。
設定内容は「得意先前受金用の統制勘定」と同様。

支払/受取手形の場合

支払手形、受取手形の特殊仕訳の場合は、以下設定を行う。
・定義:受取手形用の代替統制勘定(Tr:OBYN)
・定義:支払手形用の代替統制勘定(Tr:OBYM)

転記キー(Tr:OB41)

特殊仕訳は、特殊仕訳が可能なように設定された転記キーしか使用できない。
(転記キーは会計仕訳の明細で、最初に入力するパラメータ)
属性のカスタマイズで、「特殊仕訳」にチェックが入っている必要がある。

以下は特殊仕訳に使う転記キーの例。

09:特殊仕訳借方(得意先勘定)/19:特殊仕訳貸方(得意先勘定)
29:特殊仕訳借方(仕入先勘定)/39:特殊仕訳貸方(仕入先勘定)

特殊仕訳のテーブル

・Table:T074 特殊仕訳勘定
・Table:T074U 特殊仕訳コードプロパティ
・Table:T074T テキストテーブル

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