【SAP知識】得意先マスタについて解説

SAP 共通・マスタ・組織

SAPにおける得意先マスタとは、自社と取引のある顧客先の属性情報を記録しておくためのマスタであり、得意先の名称や住所をはじめ、取引条件や支払いに関する取り決め、納入日程にかかわるパラメータなど様々な情報を保持する。
品目・得意先・仕入先を合わせて「3大マスタ」と呼ばれることもあり、重要なマスタの一角を担う。

この記事では、SAPにおける得意先マスタの概要や主要項目に関する説明を行う。

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得意先マスタの概要

得意先マスタのトランザクション

得意先マスタの登録・変更・照会は以下トランザクションから実施する。

・Tr:VD01 得意先マスタ登録(販売管理)
・Tr:VD02 得意先マスタ変更(販売管理)
・Tr:VD03 得意先マスタ照会(販売管理)
・Tr:XD01 得意先マスタ登録(共通)
・Tr:XD02 得意先マスタ変更(共通)
・Tr:XD03 得意先マスタ照会(共通)

なお、S/4から得意先・仕入先マスタはBP(Business Partner)に統合されたため、上記トランザクションはS/4では使用できなくなっている場合がある。
S/4ではTr:BPから登録・変更・参照すべての操作を行うことができる
BPの基本機能や概念については以下記事で解説しているので、併せてご参照頂きたい。

【SAP知識】BPマスタについて分かりやすく解説
S/4 HANAでは得意先マスタ・仕入先マスタがBP(Business Partner)に統合された。 これに伴い、BPロールの考え方や従来と異なる画面制御などが導入され、ERP6.0に慣れているとBPになかなか馴染めないという技術者も多いのではないかと思われる。

得意先マスタの構成と主要項目

得意先マスタは主に以下のビューにより構成される。

・一般データ:名称や住所などの項目を保持する。
・販売管理データ:販売エリア(販売組織/流通チャネル/製品部門)ごとの取引条件や受注・出荷・請求に関わる項目を保持する。
・会社データ:主に会計管理に関わる項目を保持する。

一般データは得意先マスタに対して一つだが、販売組織及び会社データは複数組織の拡張ができる

例えば、SAP内に会社コードは複数定義できるが、それぞれの会社が一つの得意先に対して取引を行う場合、取引条件は会社ごとに異なる場合があるため、「会社ごとに情報を拡張する」ことができる。販売組織についても同様で、営業課などが異なる場合で同一の取引先を相手にする場合、取引条件が異なることがある。

各データビューごとに配置されている項目は以下のようなものがある。

一般データビュー

・得意先コード
取引先(主に販売・出荷を行う対象の法人や個人)に対して振った社内的な管理番号が得意先コードとなる。

・名称1~4
得意先の名称を入力する。
名称項目は、それぞれ40桁の文字列が入るようになっている。
4項目あるので、導入会社ごとの要件で使用方法を決める。

例えば、以下のように使い分ける。
・名称1の40桁で収まらない場合に名称2以降を使用する
・名称1に正式名称を、名称2に半角カタカナ表示を入力する

ちなみに、得意先一般テーブル「KNA1」にある名称項目は35桁しかないので注意が必要。
帳票出力プログラムなどで文字列全てを取得する場合は、基本的にはADRCテーブルから取得する必要がある。

・検索文字列1/2
得意先を検索するときに用いる検索文字やキーワードを設定しておく。

・住所
都道府県、市区町村、郵便番号、地域コードといった項目がある。
国ごとに、どの項目にどの地名情報を入れるのかが異なるので、国際プロジェクトでは運用に注意が必要。
また、住所情報も基本的にはADRCテーブルから取得する。

・国際アドレスバージョン
住所に関する情報は単一とは限らず、国際取引では日本語の住所に加えて英語表記の住所も保持する必要がある。
このような場合に、言語別に住所情報を保持できるのが国際アドレスバージョンとなる。
国際アドレスバージョンは以下記事で解説している。

【SAP知識】国際アドレスバージョンとは?仕入先・得意先に言語別住所を持たせる方法
SAPにおける国際アドレスバージョンとは、仕入先・得意先マスタといった住所を保持するマスタに対し、言語別の住所登録を可能とする機能だ。 今回はSAPの国際アドレスバージョンについて有効化方法やマスタ登録方法を解説する。

・電話番号、FAX番号、E-mail Adress
得意先の連絡先を必要に応じて設定する。

・納入区域
輸送経路や納入日程の決定に使用する、顧客先(出荷先)の位置情報を表すコードを予め定義し、得意先マスタに設定する。

・仕入先コード
当該得意先が、仕入先として取引される場合の仕入先コードを入力する。
支払の際の債権・債務相殺を行う際にも参照する項目となる。

販売管理ビュー

販売管理ビューでは、主に受注/出荷/請求といったSD領域の業務に関わる得意先の情報・属性を保持する。

・BPロール(FLCU01)
得意先に対して”FLCU01″のBPロールを選択することで、得意先の販売管理ビューの拡張を行うことができる。S/4の場合はBPロールを設定する必要がある。

・販売組織/流通チャネル/製品部門
販売組織、流通チャネル、製品部門の3項目で「販売エリア」を構成する。
得意先を販売組織ビュー拡張する際のキー項目となる。

受注タブ
・得意先自社勘定コード
取引相手で使用している、自社の取引先コードを設定する。
請求書などの帳票に載せることで、相手方にとって取引先の識別がしやすくなる。

・通貨/換算レート
海外顧客の場合は、使用する通貨およびレートタイプを予め指定しておく。

・価格グループ
得意先が属する価格グループを設定する。
価格グループは、条件マスタ(価格)におけるキー項目として使用することができるので、得意先ごとの価格決定のパラメータに使用することができる。
商品を買い取っていく頻度や発注量、個人客か卸業者か小売店かなどといった形で、価格グループを予め設定しておくことで、得意先の属性に応じた価格設定をするために使用する。

・得意先価格決定表
どの価格決定表を採用するかを指定するパラメータ。

出荷管理タブ
・出荷優先順位
出荷を行う際の優先順位を決定するパラメータ。

・受注統合
複数の受注を一つの出荷伝票にまとめるフラグ。

・出荷条件
出荷に関わる条件を指定するパラメータで、輸送の日数や引き当ての優先度などに関わる。

・一括納入
一括で納入する必要がある得意先の場合、チェックする。

・分割納入/明細
分割納入の条件を設定する。

・分割最大回数
分割可能な上限がある場合は設定する。

・無制限許容範囲
過剰納入や不足納入の許容範囲を設定せず、システム上は過不足をエラー扱いしない場合にフラグを設定する。

請求タブ
・Inco. Version
どのインコタームズのバージョンを採用するかを決定する。
インコタームズは定期的に改訂されており、現在の最新はインコタームズ2020となっている。

・インコタームズ
貿易の取引条件を表す三桁コードであるインコタームズを指定する。
インコタームズについては以下で詳しく解説している。

【SAP SD業務知識】「インコタームズ」とは?貿易取引条件まとめ
SAPのロジコンサル(主にSD/MM)が知識として押さえておくと役に立つ「インコタームズ」について解説。 インコタームズとは、ICC(国際商業会議所)が輸出入の際の貿易条件について定めたルールのこと。 今回はインコタームズの基本事項と、SAPコンサルとして押さえておくべきポイントを中心に解説する。

・インコタームズ場所
貿易書類上、インコタームズに続けて指定引渡地を明記する必要がある。
その引き渡し場所の名称を入力する。

・支払条件
各得意先と合意している支払いサイトなどに基づき、支払い条件を設定する。
販売組織ビューにおける支払条件は、受注伝票上で適用される。

・勘定設定グループ
該当得意先で売上を計上する時の、収益勘定を決定するためのパラメータ。
得意先により売上勘定を細分化する場合にこのパラメータを用いる。

・仮受消費税(出荷国/税カテゴリ/税分類)
出荷国ごとに、該当得意先に出荷する場合の税カテゴリおよび税分類(課税/非課税/免税等)を設定する。

取引先機能タブ
取引先機能においては、該当の得意先に対して、取引上の各役割を果たすのが誰かを表す得意先コードを指定することができる。
取引先機能には、標準で以下のものがある。

SP 受注先 “Sold-to Party”
SH 出荷先 “Ship-to Party”
BP 請求先 “Bill-to Party”
PY 支払人 “Payer”

一例として、出荷先は受注先と異なる場合がある。仮に受注先が「A社関東営業所」という得意先だったとする。
受注した資材は埼玉にある営業所ではなく、千葉の資材倉庫に運び込んでほしい、という場合は別途「A社千葉倉庫」を出荷先として指定する必要がある。よって、A社千葉倉庫の住所を保持する得意先マスタが、別途登録されている必要がある。
そして、「A社千葉倉庫」の得意先コードを、「A社関東営業所」取引先機能上の「SH 出荷先」に設定しておくことで、受注伝票を作成する際に出荷先として「A社千葉倉庫」が提案される。

同様に、請求書を送る先が東京営業所ではないという場合がある。経理部門が営業所とは別拠点に存在したり、あるいは親会社が一括して請求を受領する仕組みとしていたりする。その場合は請求先としての得意先コードが別途登録されている必要がある。
同じく、支払をする者が受注先と異なる場合もある。

・デフォルトフラグ
取引先機能は、同一機能に対して複数の得意先コードを設定することができる。
複数設定したうち、どれを正とするか(あるいは最も頻度が高く使用されるか)を指定するために、デフォルトフラグを設定する。これを設定しない場合、受注伝票上で都度選択する必要がある。

得意先テキストタブ
フリーテキスト形式で、得意先に関わる属性を記述するための領域。
テキストIDをカスタマイズし、各テキストIDそれぞれの記述目的を設定し、得意先ごとにそれぞれの内容を記載する。
通関用書類に載せる定型文言などを入れて置く場合や、予め記述書式を決定して空き項目的に利用されることも多い。

ステータスタブ
・受注ブロック
該当得意先の受注伝票の登録をブロックする。全販売エリアか、特定販売エリアのみのブロックかを選択できる。

・出荷ブロック
該当得意先の出荷伝票の登録をブロックする。全販売エリアか、特定販売エリアのみのブロックかを選択できる。

・請求ブロック
該当得意先の請求伝票の登録をブロックする。全販売エリアか、特定販売エリアのみのブロックかを選択できる。

会社ビュー

会社ビューでは、主に債権管理・入金処理といった会計領域(FI)の業務に関わる得意先の情報・属性を保持する。

・BPロール(FLCU00)
得意先に対して”FLCU00″のBPロールを選択することで、得意先の会社ビューの拡張を行うことができる。

・統制勘定
得意先に対して債権を立てる時の勘定コードを指定する。
通常は売掛金勘定にあたるコードを設定する。
会計伝票で得意先明細を入力する時は、ここで設定した統制勘定コードを参照する。

・支払条件/支払方法
得意先からの支払いについて、支払いサイト(支払いまでの猶予期間)などの諸条件や支払方法(受取手形や現金振込等)を定めるパラメータ。
会社ビューの支払条件/支払方法は、会計伝票で債権を計上する際に適用される。

与信管理

SAP与信管理では、顧客あるいは顧客グループ会社毎に債権額や受注可能額の上限(与信限度:Credit Limit)を設定して管理することで、「顧客の支払い能力を大きく超えて財やサービスを提供してしまった結果、代金回収が出来なくなってしまった」などという状況を回避する機能が備わっている。

与信管理機能については以下の記事で詳しく解説している。

【SAP SD知識】SAP与信管理機能について分かりやすく解説
SAPにおける与信管理機能では、受注や出荷を入力した際に、該当顧客からの総未払い額(債権や受注残含む)が一定額以上を超えた場合に警告を出したり、エラーで後続処理を停止させたりする制限を設けることができる。 今回はSAPの与信管理機能について、基本的なカスタマイズと運用を解説する。

得意先マスタの主要テーブル

Table:KNA1 得意先マスタ:一般データ
Table:KNB1 得意先マスタ(会社コード)
Table:KNVV 得意先マスタ:販売データ
Table:KNVP 得意先マスタ 取引先機能
Table:KNVI 得意先マスタ 税コード
Table:ADRC アドレス

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