忘年会に行きたがらない若者たち
新入社員や若手社員が、忘年会をはじめとした会社の各種飲み会に、「参加したくない」と感じている。そんなデータを最近よく目にするようになったのではないだろうか。
データだけではなく、実感としても頷けますよ。
つい10年くらい前までは、若手は飲み会参加必須みたいな空気があったと思います。酒の席というのは、仕事の中ではなかなか伝えられないことを教え伝えたり、酒の席でのマナーや、お酌をするなどの立ち回り方、年配社員への話を傾聴する場であるとして、飲み会に一定の価値を与えている風潮がありましたからね。そういったなかで、「飲み会の幹事をする若手社員は将来有望」みたいな雰囲気もありました。
しかし、いまや新入社員も不参加を表明するようになり始めましたし、幹事をやっていた若手社員も「本当は面倒だしやりたくない」と回避し始めるようになりました。
ここ10年くらいで空気が変化した感があり、それがデータに表れ始めたと言ってもいいだろう。
まあ、実際、日本企業の飲み会って窮屈ですよ。
準備段階から、偉い人たちにお伺いを立てながらスケジュールを調整したり、中締めなんかの挨拶をお願いしたり、予算内で済むお店を探したり、ちょっと予約が遅くなると大人数が入れる店は埋まってしまうので早めの争奪戦に勝たないといけませんし。
当日も当日で、お酌をしたり挨拶回りをして偉い人のご機嫌伺いをしたり、お会計したり参加者からお金を集めたり、余興なんかをやらされたりもしますよね。当然、酒の味も食事の味も楽しむ余裕なんてないです。さらには二次会なんかもあるので、お金も時間もどんどん奪われていきますが、やってることは一次会と同じです。
知り合いの話では、新人が偉い人より先に食事に手を付けてしまって、「これは土下座だな」と言われたりもしたそうだ。
もはやサル山の文化だな。日本猿のコミュニティでは、ボス猿が来ると目下の猿たちは餌を明け渡して、ボス猿が満腹になるまで食べてはいけないそうだ。
……そんな飲み会だったら、その時間を家でゲームして風呂入って早めに寝るのに使った方が良いですよね。お金も浮きますし。軽度のマナー違反(?)で土下座までさせられて。
まあ、そんなわけで若者視点からだと、飲み会は窮屈なものであるわけだ。昔はそれでも、飲み会に社員が参加するのは「お付き合い」で当たり前だった。それがなぜ変化してしまったのか?を考えないと、今後も忘年会の参加者は減る一方で、いずれ年配社員のみの寄り合いと化してしまうだろう。
そうなる前に、上司や管理者の視点からどう対応するべきかを考え、4つのアクションを提案したい。
なるほど、今回は、上司や年配社員の視点から、若者が飲み会に来なくなった時代にどう対応すべきかということを考えていくんですね。
そうだな、若者視点で「飲み会をうまく断る方法」系の記事は多いものの、上司視点でどうすればいいかの記事は意外と少ない。
部下が忘年会に来ない上司がすべき4つの行動
まず正しい現状認識
まずは、いままで会社組織が「飲み会」という仕組みに持たせてきた機能やメリットを整理しよう。
・出世競争の場としての機能
・酒の席のマナーおよび文化の習得
・酒のマナー・文化習得により、顧客企業との付き合いなどを学び、
受注獲得や関係維持など、商取引に役立てること
これらは会社組織の価値が人生の大きな比重を占めていることを前提とした機能やメリットだ。また、自社も顧客も同一の酒のマナー・文化を保有していることも前提としている。
となると必然的に、会社組織そのものの価値が下がってしまったとき、これらの機能的価値やメリットも低下することになる。
昔は会社に人生を捧げるような価値観が美徳とされてきましたけど、いまは会社の価値そのものが低下しているんですね。しかし会社の価値の低下とは、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。
これには3つの側面から整理していこう。
①手取り収入が下がったことによる、会社の価値の下落
手取りが下がったことにより、会社が出す給料の価値が下がった。以下の記事によれば、額面年収700万円なら15年間で50万円減少しているという。
手取りが減っても総支給自体は横ばいであるため、会社が労働者に対して支給できる賃金が実質的に減った。つまり、会社自体の価値も当然下がったと言える。
一方、給与体系は年功序列・終身雇用制度を引きずってしまっており、諸外国に比べ高度人材に十分な賃金を提示できない現状も浮き彫りとなっている現在、高収入が欲しい若者に対し夢のあるビジョンを提示できていない。
低下した手取り収入を補うために副業が必要なものとして見直されつつあり、今後は副業前提で会社勤めをする若者が増え続ける。老後についても国や企業が面倒を見るのではなく、確定拠出型年金で個人が資産形成をするという時代になったため、さらに企業が労働者に提供できる価値が低下した。
②会社に依存しない働き方の可視化と働き方改革
SNSの隆盛により、会社に依存しない働き方が可視化されたことで、一層労働者にとっての会社の価値が下がった。会社に依存せず高収入を得ることができる職業を身近に感じられるようになり、低収入で激務なうえに、忘年会に代表される過度な感情労働を強いる典型的な日本型企業の体質が敵視されるようになった。
更には、ブラック労働が問題になったことにより、働き方改革などで残業を抑制する力が働き、ワークライフバランスが見直されるようになった。結果的に、会社の従業員に対する拘束力が弱まり、私生活を重視する価値観が強まった。飲み会に出ないと出世できない、などという圧力も必然的に弱まった。
③日本経済の低迷
日本経済の低迷で終身雇用制度などが崩壊し、安定したレールに乗った人生を生きることが最上という時代が終わった。
会社とは人生のレールそのものであったが、大企業が潰れたりリストラを推し進める時代となり、レールに乗ることの神話が崩壊したことで、社内で出世をしたり会社に人生を捧げたりすることの価値が低下した。飲み会でうまく立ち回ることで、出世競争に打ち勝つというような時代もあったが、いまや社内での出世自体の価値が相対的に下落したため、若者が飲み会に参加するメリットが消えた。
また、会社に依存しない形で収入を複線化するために、副業や資格勉強、各種スクールに通う時間が必要になり、飲み会(単なる出費)よりも自己投資に時間を割くことに価値を見出す人が増えた。
なるほど、時代の移り変わりを感じますよ。十数年前ではありますが、ぼくの学生時代なんか、まさにいい大学に入っていい会社に行くことや、安定した公務員になることが至上の就職とされていました。
そうだ。まずは日本経済と企業を取り巻く環境は、本当に劇的に変わってしまったことを認識しなければならない。
①の手取り収入がこんなに減ってたことも衝撃です……。
今と昔では、同じ年収でも残念ながら今の方が価値が低いということだな。
なんだかこうしてまとめてみると、飲み会からの人離れというよりも、会社というもの自体からの人離れのようにも思えるのですが。
良い視点だと思う。
年配社員は、忘年会から人が離れたことを嘆くのではなく、もっと大きな人離れの波が来る前兆なのだという認識を持つべきだ。むしろ、そのような前兆を察知できたことを僥倖と思わねばならない。そうでなければ茹でガエルとなる以外に道はないからだ。時代は変わったのだ。
衛生要因の改善 しきたりからの解放
2番目の行動について解説する前に、モチベーション理論について少し話をしておこう。
モチベーション理論ってなんですか?
管理職ならば、研修などで耳にしたこともあると思うが、部下をどのように仕事に対して前向きにさせ、動機づけをするかについての理論だ。モチベーション理論の中に、『ハーズバーグの動機づけ=衛生理論』というものがある。
おお、どんな理論なんでしょうか。
モチベーションには衛生要因と動機づけ要因の2要因があるとされる。
衛生要因というのは、飢えや痛み、不潔などの不愉快な要因を避ける回避欲求の事で、動機づけ要因とは、仕事の達成感や承認欲求を満たしたいという欲求だ。ハーズバーグは、動機づけ要因への働きかけをすることで職務満足をすることが出来るが、衛生要因の欠乏は職務不満を生むが職務満足は生まない、というものだ。
なるほど。
上でも説明した通り、会社の価値が下がっている今、若者は会社からの承認欲求というものを重視しなくなっているので、動機づけ要因を忘年会に見出すことが難しい。もはや忘年会を職務満足につなげる場と捉えるのをやめるべきだ。
一方で、衛生要因は欠乏していますよね。
安くない出費を強いられますし、年配の説教を聞いたりお酌したりといった感情労働が必要ですし、さっき聞いたみたいな土下座強要の事例もあります。
そのとおり。まずはそういった負のイメージを払拭するところから謙虚に始めなければ、今後も人は離れていく一方だ。
どうすればいいのでしょうか。
まずは若者を古いしきたりから解放すること、そして上司自身も解放されることだ。職場の上下関係からも離れて、一個人として互いに向き合うよう努力することだ。
そもそも、社内の上司にお酌をする文化が良くない。
女子社員にお茶汲みをさせることが男女雇用機会均等の考え方が浸透したことにより問題視された事があったが、今後は性別にかかわらずハラスメント防止の観点から酒の席でのお酌も問題視されるようになる時代が必ず来る。そうなってから考え方を変えようとしても遅い。ハラスメントの槍玉に挙げられるのは上司自身となる。
なるほど。そういえばぼくも後輩にお酌されることがありますけど、断ることもありますよ。自分で好きなだけ注ぎたいし、別のものを飲みたかったりもするし、そもそもお酌されて気持ちいいと思ったことが無いです。
顧客との付き合いなどで、お酌の仕方を知っておくのは必要な側面もあるが、そこを戦略的に使いたければ正式な業務と捉えて社員研修に組み込めばいい。いまや飲み会は嫌な思いをする場になっているので、そこを教育の場にすると、お酌の品質がかえって低下してしまう。
動機づけ要因の創出 酒と食事のクオリティを上げる
次に、会社として正道な動機づけ要因が提供できなくとも、他の側面からの動機づけ要因を提供することは出来る。
シンプルに酒と食事のクオリティを上げることだ。良い食事や酒を提供されることは、それだけでも企業から承認されている感覚を生む、つまり動機づけ要因になりうる。
あー。学生時代とあまり変わらない居酒屋で、学生時代とあまり変わらない飯と酒を口に入れてると、社会人ってなんなんだろうなーって気になってきますよね。
社会人になったらワンランク上がった!?みたいな感覚があると、社会人としての動機づけになるかもしれませんね。
そういうことだ。ところでバブル世代に就職した若者が、企業からどういう待遇を受けていたか知っているか?
バブルの時はとにかく人が欲しかったので、あの頃の就職活動と言えば、ただで飲み食いさせて学生をとにかく囲い込むようなことをしていたらしいですよ。
そのさんざんチヤホヤされたバブル世代が管理職になって、今度は若者への飲食代供出をケチっているのだとしたら、笑い話にしかならない。
うーむ、たしかに。バブルのときに就職活動を経験してみたかったなあーって思いますよ、たまに。
でも、今は企業にもそんなお金ないですよね。
7千円~1万円くらい出せば、そこそこのフレンチで結構おいしい料理が食べられる。一万円以内で、一杯の美味しいワインも頂ける。
若者は忘年会に5千円程度の出費をし、差額は会社が供出すれば良い。そうしたクオリティ重視の飲み会をセッティングすればいい。
ワイン一杯だけだと、「飲み」会とは言わないような……。
ストロングゼロが流行るご時世だ。若者は安く酔える酒しか飲めず、本当の酒の味を知らない。良い酒の1杯は安酒の10杯に勝るとは思わないか?
まあ、この際アルコール重視から離れて味を追求するのも面白いかもしれませんね。
そうした方が明らかに「ワンランク上がった感」を演出できる。他企業との差別化にもなるので、若い社員からも一定の賛同を得られると思われる。
そして、年配社員たちは長く生きている分、良い店を知っているのだから、若者をそういう店に連れていけばいいのだ。若い社員が選ぶと、予算の縛りや知識のなさからチェーン居酒屋を選んでしまう。まずは年配ならではの店選びの範を示すのだ。
よくよく考えると、大学出たばかりの若い人に幹事を任せたら、大学性が行く居酒屋の延長線上にある店しか選ばれないですよね……。社会人になった感があまりないかもです。
飲み会好き同士で固まらない
若者も若者で、体育会系・酒好き・日本企業の古い思想に入社直後からどっぷり漬かっているというような者もいる。そうした若者は率先して年配社員の飲み会における姿勢に賛同してフォロー行動を取るので、年配社員としては自分の価値観が肯定されているようで、その若者を評価してしまう。
しかし、これはかなり危険な行為だ。
それって、「若者の飲み会離れと言われているけど、こういう有望な若者もいるので、やっぱり自分は間違っていない」っていう発想に陥りますよね。
そうだ。集団心裡の罠というやつだ。同質性の高い集団で固まって価値観を肯定しあうことで、自分は間違っていないという感覚が増幅される。結果、酒好きの意思決定が組織を支配し、飲み会が嫌いな若者の人離れが更に加速する。
飲み会好き同士で固まりすぎると、どんどん人が離れていくんですね。
集団心裡の罠はグループシンクとグループシフトの二つの罠がある。
【みる子ノート】 グループシンク:集団浅慮 同質性の高い集団の中で、異なる意見が抑圧され、かえって個人で考えるよりも 浅慮な意思決定をしてしまう。 グループシフト:集団傾向 同じ傾向を持つ集団が議論することにより、意思決定の傾向が増幅される。 保守的な集団はさらに保守的に、過激な集団はさらに過激になる。
上司としては、つい価値観の近い若者を重宝したくなってしまうのはわかるが、これからの組織は多様性を受け入れなければ生き残っていくことは出来ない。とくに、意思決定者としてグループシンクやグループシフトに陥ることは避けたい。それが例え飲み会のことであったとしてもだ。
飲み会好きが今後どんどん減っていくとしたら、より少数で先鋭化してしまい、多くの人離れを引き起こしそうですね。
そうなる前に、まずは時代が変わったことを受け入れる必要があるな。忘年会に行きたくない若者が増えているというデータは、多くの企業にとって決して遠い世界の出来事ではない。また、単なる飲み会だけにとどまる話ではない。会社から人が離れ始める前兆ということを、しっかり押さえておこう。
それでは、今回はここまでにしておこう。
ありがとうございました。
※この記事は、実際に筆者が中小企業診断士として相談を受けた社長様と会話した内容をもとに構成しており、「時代が変わったことに気付けていないのではないか」「忘年会離れはより大きな人離れの前兆ではないか」といった興味深い視点が挙げられたため、ブログ記事として共有することといたしました。