「SAPについて勉強したい」
「SAPエンジニアにはどうやったらなれるのか」
「SAP案件にアサインされるよう交渉したい」
といった声をけっこう耳にする。
未経験ながらSAPに着目して転職したいと思い立った人は、かなり情報収集能力が高い。
現役SAPコンサルタントである筆者が、国内・海外のシステムベンダー、コンサルティングファーム、監査会社その他を含め、おそらく数百人単位でSAPコンサルタント・エンジニアを見てきた経験から、どのようにSAPコンサルタントになり、どのようにキャリアを積んだら良いのかを紹介する。
※SAPコンサルタントとは、ERPパッケージであるSAP ERP導入や保守を専門とする技術者あるいはコンサルタントの事。
・SAPコンサルタントとして高付加価値化する方法(記事の中段で説明)
・SAPの勉強方法(記事の一番下段)
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はじめに:SAPコンサルタント/SAPエンジニアの市場状況
SAPコンサルタントの単価相場は?
SAPは技術者の数が少なく、敷居の高さもある一方、需要は大きいため、高単価になりやすい。
一般的なSIerだと下記のような価格帯が一般的と思われる。
※SIer:システムインテグレータ。比較的大規模なシステムを法人・公官庁に納入するIT企業のこと。
・SE:90~140万
チームリーダーなどを任せられる人材になると、上限側の数値に近くなっていく。
コンサルファームだと新人でも月単価300万だとか、景気のいい数字が並ぶ。
※いま現在あるいは未来の相場を保証するものではない。あくまで過去のとあるプロジェクトの参考値。
※SIerでも人材の質に応じ、上記より大幅に価格が大きい(または小さい)場合も普通にある。
今後の市場動向や単価変動は?
短期的には、SAPはいわゆる2025年問題(現在は2027年問題)という、次世代SAPであるS/4 HANAへの刷新需要により、SAPコンサルタントが足りておらず人手不足となっている。
SIer企業の好景気と相まって、売り手市場で単価は上昇傾向にある。
一方、2020年の感染症の流行とそれに伴う不況により、ユーザ企業のIT投資制限を受けて、一時的に単価上昇が止まり、下落傾向に転じてもいる。
しかし、今回の不況を外的要因による一時的な不況ととらえるならば、景況回復の暁には再度単価上昇が始まっていくと予想することもできる。
長期的には、2027年を過ぎたあたりから、S/4 HANAへの刷新需要は弱まり、SAPエンジニアの単価は再び下落傾向になると考えられる。
しかし、S/4 HANA導入後の保守需要(現在もSAP保守要員というのは平均的なSEより高単価)、今後10年で予想される新たなデータトランスフォーメーション需要から、IT業界構造の変化により新規の需要創出にも期待できる。(新規の需要に対応するには、勉強が必須だ)
結論的には、今のところSAPコンサルタント/SAPエンジニアの単価変動について、明確な悲観要因は少ない。
SAPコンサルタントになるには?
まずなにかしらのSAPとのつながりを作る必要がある。
ここではどのようにしてSAPとつながりのある仕事を獲得するか、そして事前準備すべき事項は何かを整理する。
SAP業界への入り方(ルート別に紹介・おススメ度付き)
おススメ度:★★★★★ SAPを扱っているSIer系企業に入る
もっとも再現性の高いアプローチだと思われる。SAPの技術的習得を目指すならこれ。
各社のSAPコンサルタント/SAPエンジニアの数的規模については、下記のパートナー別SAP認定コンサルタント資格取得数から確認できる。(資格取得者数なので、未取得のSAPエンジニアはこの数倍居る)
SAP案件を扱っているプライム(一次請け企業)に入るでもいいが、技術職と言うよりはマネジメント職になってしまうので、二次請け企業で優良なところを探すのが良い。
SIer企業は大手であればほとんどが子会社を持っており、管理業務を本体で行い、技術者を子会社に抱えるパターンが多い。
大手SIer子会社などを狙うのもありだ。
もちろん本体親会社に入ったとしても、希望する働き方によりレベルの高いSAPコンサルタントになることも出来る。
ただ大手SIerは就職転職市場で人気なので狭き門であることも考慮すべきだ。
おススメ度:★★★★☆ コンサルティングファームに入る
アクセンチュアやアビームコンサルティング、PwCなどなど、SAPコンサルを多数抱えるコンサルティングファームはいくつか存在する。
いきなりキャリアを上流工程から始められるので、これもおススメ度は高い。
コンサルティングファームは給料も高いし。
ただ、なぜおススメ度が星4つなのかというと、シンプルに高給ゆえに狭き門であり、入っても結構仕事がシンドかったりする。
最近は働き方改革で、コンサルファームでさえも、毎晩電車もなくなった深夜にタクシーで帰途に着くような生活をしているコンサルタントは比較的減少傾向である。
しかしながら、やはり凡人にとっての仕事のしやすさを考えた場合、働き方としては日本的SIer企業に入るのが安全牌だ。
本気で高年収を狙いに行き、後年のキャリアにもハクをつけたいのであれば、コンサルティングファームを狙ってみる戦略は有効だ。
おススメ度:★★★☆☆ SAP導入中の企業に社員として入る
ユーザ企業側から入るというのも一つの有効な手ではある。
ユーザ企業としての業務ノウハウ(業務を知っていること)は経営資源計画たるERPソフトを扱う上で非常に重要。
これはSAPプロジェクトチームに入れてもらえるかは運次第だが、下記のようにユーザ企業からアクセンチュアに転職してSAPコンサルタントになった例もあるので、ユーザ側から入るというのは非常に有効と言える。
SAPユーザ企業の正社員あるいは派遣社員として入り、業務部門やIT部員として導入中のSAPプロジェクトに参加することで、構築から本番化までの仕組みを学ぶことが出来る。
構築ベンダーとの人脈を構築し、それを転職に利用して「SAPコンサル/エンジニア」を名乗るというルート。
このルートはどのように評価するか?
これは先に言っておくと再現性の低い手段だ。運よくSAP導入初期フェーズの企業を見つけ、運よく導入プロジェクトにアサインされる幸運は、なかなか狙いづらい。
また、はっきり言って技術習得の面でも弱い。ユーザの立場からでは、カスタマイズやプログラムを学ぶことは当然難しいため、SAPの技術的な側面の勉強は困難だからだ。とくにプログラムを学ぶ機会は全くないだろう。
しかし、それでも星3つで評価するのは理由がある。
業務要件(上流工程)に近い視点から「SAPって何が出来るの?/出来ないの?」ということを考えるという、ユーザ企業での経験は役に立つからだ。
自社業務を理解し、それをどうSAPに落とし込むかというのは、上流工程の考え方そのものだ。
設定や構築を技術者に丸投げせずに、一緒に調査研究をして知識を掬い上げるような働き方をすれば、その後のSAPコンサルタントとしてのキャリアにプラスになる業務経験となるだろう。
ただ何度も言うようで申し訳ないが、SAP導入中企業を運よく見つけられるかとか、入ったとしても希望と違う職種に回されるなど、再現度は決して高くない。
ちなみに、今いる会社内でSAP導入プロジェクトが進んでいるなら、(大炎上してないか少し確認してから)飛び込んでみても良いだろう。
おススメ度:★★☆☆☆ SAP導入済み企業に入る
これもユーザ企業側から入るという手段であり、上記と論点はほぼ一緒。
自社のSAPを触りながら技術習得したり、保守ベンダーの親切そうなSEからSAPを教えてもらうというパターン。
保守フェーズにあっても、中小規模のシステム改修はあったりして、要件定義から構築までの小規模ウォーターフォールモデルを何度も回す機会はある。
そこに業務側のサポートとして入るという立ち位置だ。
小規模開発を経験しつつ、構築済みSAPシステムをいじりまわしたり、既存資料をガンガン読むなどして、ある程度の習得をすることもできる。
注意点として、もしその案件が、勉強する余裕もなく定常作業の山で使い潰されるような仕事であれば、早々に離れよう。
あるいは保守ベンダーに優秀と思われるSAPエンジニアやSAPコンサルが見当たらない場合も、有効なSAPスキル習得につながらない。そういった見極めは必要だろう。
これも案件ガチャ的な側面があり、成功の再現性は低い。
SAP業界に入る前にすべき準備は?
いずれかのルートで業界に入る目途が立ったならば、次に実業務を始める前の準備について考えてみる。
先にプログラミング学習は必要?
目指すところにもよるが基本的には不要。
SAPはABAPという言語によって動いている。そして、わざわざABAPをピンポイントで自費で学ぶ必要性は薄い。
ABAPをピンポイントで教えてくれるようなスクールは個人的には知らないし、あっても海外にしかなさそうだ。
(国内で教えてるとこがあったらごめんなさい)
基本的には現場に入って覚えていけばいい。
とくに高単価を狙って基本設計以上のSAPコンサルタントになるのであれば、いくつかのABAPの作法と、最低限の技術者としてのプログラム知識があればいい。
ABAPを知らなくても、業務経験を重ねるうちになんとなく読めるようにはなる。
最低限、技術者としてかじっておくこととして、プログラムとは基本的に順次処理・条件分岐・繰返実行が基本構造であるということである。しかし、これは特定の言語に依存した話ではない。
もちろん下流工程もこなせるITコンサルというのも付加価値・差別化要因にならないこともないので、興味があるならABAPも学んでみると良いと思うが、優先度としてはさほど高くない。
SAP業界でプログラマーになるのであれば、ABAPというよりはいったん他の言語でプログラムを学んで、そのあとにABAPの作法だけ身に着けるというやり方で十分だと思われる。
システム技術者としての基礎知識は必要?
データベース操作言語であるSQLは必須(SIerが扱う大方のシステムでは必須だが)であり、これがわからないとデータベースが理解できない。
基本設計以上の担当者はSAPのDB構造を知っておかないと仕事にならないので、最低限押さえておく必要がある。
しかし、プログラミングの基礎であるとか、SQLであるとか、その他システムの作法は、SIerやITに関わる企業であれば、新人研修でだいたいのことは学ぶはずだ。
よって個人的に大掛かりな準備をするのは不要だ。
中途入社で、システム知識も持ってない……、という場合
もし基本的なシステム知識を学ぶ機会がなかったのであれば、IPA基本情報技術者の勉強に取り組むのも一つの方法だ。
この試験はシステム業界のお作法の勉強と言えるため。
とりあえず現場に入る前から上記のようなものを自主的に勉強しておくと良い。
SAPそのものの知識はIPAの試験には出てこないが、そもそもどのようなシステムを扱う上でも必要となる技術者の素養を勉強できるのがIPAの資格だ。
高単価SAPコンサルタントへの道
ここではSAP案件に入った後、SAPコンサルタントとして成長し、付加価値を得て、高単価技術者となるための具体的なアクションを紹介する。
キャリア初期 1年目~5年目
SAPは触ってなんぼ。画面を操作し設定も調べる
まずはとにかく画面を触る。一日中SAPを操作しているくらいの勢いで、最初は業務時間中はずっと触っていよう。
SAP画面は、最初はかなりとっつきにくい。
トレーニングを受けよう
気前のいい会社であれば、自社人材の育成のためにSAP公式のトレーニングにポンとお金を出してくれる。
ちなみにSAPジャパンが提供しているトレーニング講座の費用は、1講座当たり下は15万から上は70万円近くのものがある。
当然ながら個人で受講するのは不可能に近いので、会社が出してくれないのならあきらめよう。
それより実践で学ぶことに主眼を置くようにしよう。
プロジェクトに入ろう
SAP構築プロジェクトに何らかの形でかかわらない事には、SAPコンサルタントとしての道は開けない。
SIer系企業に入ったならば、進行中または計画中の構築プロジェクトへの参加を積極的に希望しよう。
ユーザ企業から上流工程への参画をする場合も、上記で紹介した記事のキャリアパスを参考に頑張ろう。
キャリア中期 5年目~9年目
SAPエンジニアとして十分な実力を付ける
顧客業務やSAPの技術習得を、日々の自主調査や勉強により積み上げる。
他の技術者よりも抜きんでたSAP知識や、担当領域の業務に詳しくなる事を目指そう。
各業務領域(財務会計、管理会計、購買、販売、生産など)の専門書を読むのも良い。一見SAPと関係ないように見えて、意外なところで知識が必ずリンクする。
業界内での差別化・付加価値を獲得する
SAPコンサルタント認定資格を取る
認定資格を取るとSAPコンサルタントとしての最もわかりやすいアピールポイントが出来るため、積極的に取りに行こう。
ネットの怪しいサイトに過去問が売っているが、そういうところは危ないのでクレカ情報を渡さないように気を付けよう。
人が少ないモジュールを専攻してみる
SAP認定コンサルタントの数を見てみると、コンサルタントが多いモジュールと少ないモジュールがある。
人が少ないというのはニッチ戦略を狙う上で重要だ。
例えばPPモジュールなどはなり手が少ないので、狙い目かもしれない。SAP生産管理機能に対するユーザの需要がただ単に少ない面も否定できないので、モジュール選びは慎重に。
英語を勉強する(TOEIC高得点を目指す)
SAPを導入するのは大企業中心であり、国際的なビジネスを展開している企業も多い。
SAP導入案件はグローバル案件となる場合も多いので、外国人が大半を占めるプロジェクトに対等な立場で入っていけるのは、大きな差別化要因になる。
例えばだが、結構海外の会社から日本に長期出張で駐在している外国人のSAP関連の技術者集団などが居て、そこに日本人ユーザとのブリッジ的な役割で入るというのもなかなか有効だ。日本人顧客の特性を理解していると、キーパーソンになりやすい。
よってTOEIC高得点は高単価を得るための重要な付加価値要素となりうる。
簿記を勉強する
ERPを扱う上で会計の仕組みを勉強することは必須と言っても良いと考える。
システム上も、ロジスティクスの実績は全てFI(財務会計)CO(管理会計)につながっていくし、顧客業務視点で考えた場合でもカネの流れ・挙動を理解していないと理解が一面的になる。
アメリカの経済学者シュンペーターは「複式簿記は資本主義の高くそびえる記念塔である」と言ったが、利潤、費用、資本という概念を体系的に説明を可能とする複式簿記は資本主義の成長とともに発展してきた。今日の会社そして株式市場が成り立つのは、簿記による会社活動の体系的かつ統一基準上での説明が可能となっているからだ。
利潤、費用、資本という概念を伴わない会社活動はなく、経営資源計画を司るERPソフトを扱うのであれば、いかに簿記知識が重要であるかがお分かりいただけると思う。
中小企業診断士の勉強をする
「簿記を勉強する」の上位互換がこれ。
経営資源計画(ERP)について勉強するなら、経営について勉強するのが一番とも言える。
中小企業診断士については、詳しくは下記の記事にて述べている。
キャリア後期 10年目~
十分な実力を付け、付加価値も獲得したならば、ついに高い年収を得るためのキャリアアップ、転職、フリーランス化(あるいは独立起業)を目指す。
残念ながら、最初に入った企業に所属したまま何もしないでいれば、一次請会社、二次請会社、三次請会社に単価を吸い取られ、高単価人材になったとしても高年収とはならない。
次のキャリアパスをどうするか、下記のパターンのいずれを選択するのかを考えよう。
おススメ度:★★☆☆☆ 自社に勤め続ける場合
この場合は通常のSIer系企業におけるキャリアパスと同じ。
つまり、一般的な日本企業におけるキャリアパスとほぼ同じと言い換えても良い。
どんどん上流職を担当していき、チームリーダーになり、ゆくゆくは課長などの管理職となる。
能力に応じどこかで打ち止まるまで、ゆっくりゆっくりと登っていく。
短期間での大きな収入向上は望めないため、SAPコンサルタントの高単価に惹かれて入った人には魅力的な選択肢とならないだろう。
これではSIer業界の中抜き構造に抗うことは難しい。
しかし、キャリアを積むうちに心変わりして安定を求めるようになったならば、この生き方ももちろん悪くない。
おススメ度:★★★☆☆ 上流会社に転職する
三次請けなら二次請けへの転職、二次請けなら一次請けへの転職をしてみる。
上流を担当している会社ほど中抜きが少なく、価格交渉力もあるため、年収アップを見込むことが出来る。
しかしながら、とある一次請けSIerの部長職が年収一千万いっていないとの話を聞いたこともあり、転職先の企業がどのようなオファーが出来るのか、しっかりと吟味したり話し合ったりしよう。
自分の期待値がどこにあるのかをしっかり把握して考なければ、「思ったより年収が上がらなかった」となってしまう。
おススメ度:★★★★☆ コンサルティングファームへ転職する
コンサルティングファームでは最上流を担当するかと思いきや、意外とプロジェクトに入るとコンサルティングファームから来ている人が、コツコツとした技術作業もやっていたりするので、技術面も面倒が見れる人はしっかり需要がある。
ただし、いわゆる「ITコンサル」が考える上流工程と、技術職でバリバリやってきた人が考える上流工程は範囲が少し違うので、そこは理解しておいた方が良い。
ITコンサルは経営課題からブレークダウンしてシステム企画に落とし込むのが仕事だ(もっというと経営課題そのものを炙り出すところも含む)。
一方、技術職はシステム企画に落とし込まれた段階からのシステム要件定義を担当する。どちらも「上流工程」なのだが、フェーズが違うのがお分かりいただけるだろう。
前段での「付加価値」の説明でも触れたように、中小企業診断士などを取得しておくことで、顧客経営課題まで見据えた思考プロセスを獲得するに役立つ。(資格保持者は、企業診断活動はしっかりやっておこう)
ちなみに、20年ほど前はSAP導入プロジェクトには公認会計士資格持ちがザラにいた。
おススメ度:★★★★★ フリーランスになる
フリーランスになるとエージェント経由でSAP案件を照会してもらえるので、SAP案件に携われる確度は非常に高い。フリーランスになる際は、まずエージェントに頼ることが定番の戦略となる。
加えて、プライム会社と強い人脈を構築すれば、ほぼ直契約で働くこともできるようになる。
中抜きが非常に少ない状態で働けるので、SAPコンサルタント/SAPエンジニアとして最も理想的な働き方になると思われる。
プライムとの人脈は大事。これさえあれば独立起業も可能。
おススメ度:★☆☆☆☆ (番外編)ユーザ企業への転職
実はわりとよくあるのがユーザ企業への転職で、IT部門管理職などのポストに入るというものだ。
それまでの技術的背景があれば、平均的なIT部門員よりもシステム業界やシステム自体に対する理解が深いので、ユーザ企業IT部門員としては重宝される存在になる。
しかし、個人的なおススメ度は最低である。
何故か。
これは少し力を入れて説明する必要がある。
技術的なキャッチアップがしづらい
まず第一点目として、プロジェクトの一員として最新技術の仕組みにまでゆっくり触れる機会は大きく減るので、SAPとしての技術的な積み上げがそこでいったん止まる。
ユーザ企業側がよほど、自社人員主導で構築していく(米国型の)SAP導入を行う方針ではない限り、SAPの経験はシステムベンダーにいる時と比べ、積み上げが少なくなってしまう。
(導入プロジェクトとなると、外部の人員に頼りきりになってしまうケースの方が多いだろう)
日系ユーザ企業に入る場合は、自分がSAPのキャリアにおいて、どのようなポジションで何をしたくてその会社に入るのか、何を得たいのかを明確にしてから転職した方が良い。
己の人材価値を過剰評価していないか
第二点目として、「自分は単価相応のSAPコンサルタントか」ということをよく問うてからユーザ企業に入る必要がある。たまに単価相応でない人がユーザ企業に管理者として入ってしまうことがあるが、当然「こんなはずじゃなかった」となる。
・SAPの技術者は当然、一般企業の部門員を管理した経験などない。
チームを率いていたならある程度勘所はあるだろうが……。
ベンダー側でしかプロジェクトに参画したことが無い場合、ユーザ企業内でいかに調整をはじめとした部内業務・部門間業務が多いかは想像ができていないのではないだろうか。
部署の管理や部門間調整などをした経験があるかどうか、ユーザ企業における部署管理の文脈を理解しているかどうか。こうした部署管理スキルの有無は、部下の心象に影響する。入ったは良いが誰も付いてこない、という事もありうる。
・技術的体系の理解があやふやだとシステム全体の理解はできない。
SAP技術者は単体のモジュール領域ごとの理解は深いものの、システム全体の理解が覚束ない場合も多い。すくなくともチームリーダーやPMを経験し、周辺システムも含めたプロジェクト全体の動きを見たことがなければ、この勘所は掴めていないと思った方が良い。
ユーザ企業におけるIT部門は、システム全体の管理がタスクであるので、木を見て森を見ない管理は通用しない。
サーバーやミドルウエアのライセンス更新業務をしたことがあるか?現行システムの維持費と次期システム導入費を天秤にかけた、次年度のシステム予算案をまとめることができるか?
自分が何をユーザ企業に期待されているかは、転職前によくヒアリングした方が良い。
・ユーザ企業のビジネス理解があやふやである。
まずその企業の一員になるのであれば、当該企業の業務理解は必須である。
その企業の既存の部門員は、新参者よりはるかにその企業を理解している。
そんな中で、業務や経営に関する生半可な理解で管理職として入っていったならば、「この人何もわかってないな」と見られて煙たがられる。
一方、(元)技術者側は、一般企業のIT部門員などよりシステムを理解している(はず)という認知の歪みがあり、つい「上から」な振る舞いをしてしまったりする。こうなるととてつもない総スカンを食らう。
本当にメリットがあるのか
第三点目として、ユーザ企業の給与体系と、SAPコンサルを続けた場合の給与の期待値は、しっかり計算した方が良い。
「給料だけが仕事のやりがいではない」という方も居るとは思うが、技術者からユーザ企業へ転職するというのは、自分なりのメリットがなければおススメはしない。
ユーザ企業への転職は、今までと違うフィールドでの戦いとなる。
そのためには、しっかりとした技術理解と業務理解、IT運用の理解が必要となる。
このあたりの実力もないのに管理職面や経験者面をするのは、現場から煙たがられるだけだ。
現場や部下に煙たがられる状況は、自分含め多くの人生を不幸にする。
技術理解と業務理解、IT運用の理解は、勉強により十分習得が可能なので、部下に勉強不足だと思われないように技術者としての不断の努力が必要だ。
さいごに:SAPコンサルタントになってバリバリ働こう
SAPコンサルタントのキャリア形成のために
如何だっただろうか。SAPコンサルタントになりたい方に少しでも参考になったら幸いだ。
SAPコンサルタントとして成長する方法や付加価値の付け方は、一定の努力は要するものだが、再現性は高いはずだ。
ただし、あくまで一個人の見解を多く含むものなので、全く意見の違うSAP業界関係者も多く居るだろう。
多くの情報収集をし、どの程度の単価を希望したいのかを考えて、キャリアを形成頂きたい。
一人でも多くの優秀なSAPコンサルタント/SAPエンジニアが増えることを祈っている。
【注意】「高単価」の意味を正しく理解する
SAPコンサルタントは高単価であるが、本当に単価相応の実力がある技術者は、実は一握りだ。
「単価相応」とは、SAP ERPの理解、業務と経営の理解、IT運用の理解が十分な水準に達していることだ。
多くの案件では、一握りの実力があるSAPコンサルタント・SAPエンジニアがチームリーダーとなり、多数のメンバーに指示をしながら構築や保守の現場を回す。個々のチームメンバーの実力はバラツキがあり、もちろん優秀な人もいるが、ほぼ未経験・全然仕事できないような人も混じっている。
「SAPコンサル一人頭いくら」として高いお金を支払っているユーザ企業は、なんか納得がいかないんですケド、という所感を持たれるかもしれないが、ITの構築とはこういうものだ。
残念ながら、IT業界・SES業界がよくブラック呼ばわりされるように、一部の業者は人頭商売を隠そうともせず技術力もない者を人数合わせで現場投入してくるケースが後を絶たない。
こういった意味でも「単価相応の実力があるSAPコンサルタントは一握り」ということになる。
一方、つまりSAPコンサルタント自身の視点も考慮してみよう。
SAPだけに限った話ではないが、会社勤めの技術者で「単価と自分の給料が大きく乖離している!」と思って、中抜きだと思い込んでしまう人が居る。
気持ちは分からないでもないが、その思いは筋違いだ。
単価と給料が乖離しているという状態は、上位者(上司、チームリーダー)から指示を受けて動くことによってその人の単価分の人材価値が発揮されている状態である、という点を忘れてはならない。
上司から何の指示がなくとも、単独でプロジェクト準備から要件定義から設計への落とし込みまで何でもこなせるのであれば、それは「単価相応」の人なので、フリーランスになるなり一つ上のステージで働くなりして活躍できる。
一方、上司から指示があって初めて動ける「普通の会社員」は、単価と給料の乖離は「中抜き」というよりは「管理費」であるので、その点は留意した方が良い。
おまけ:SAPコンサルタントとSAPエンジニアの違い
実は呼称の定義があいまいでよくわからない。意味は同じと思って良いだろう。
普通にバリバリの技術職でも「SAPコンサルタント」と呼んだりする。
SAP公式が、上流下流に関わらず総じて「SAPコンサルタント」と呼んでいるためだ。
SAPコンサルタントとSAPエンジニアの違いは明確ではなく、なんとなく上流下流の区別はあるものの境目は非常に曖昧、といったところか。
まあ、コンサルって言っといた方が単価も高いし?
※ちゃんと実力が伴わないと単価は低い。SAPに限らずどこも同じ。
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